仕事で使う道具を従業員に購入させても良い?問題となるケース、ならないケースを検討

新年度を迎え、早10日あまり。弊事務所では、新たに社会人生活をスタートさせた方やアルバイトを始めた方からのご相談を受けることが増えてまいりました。労働者の方からのご相談の中でも特に多いのが、「業務上必要な物品の労働者負担」に関わるもの。キッチンで働く際の厨房靴や、塾講師が指導に使うテキスト、建設業の工具・ヘルメット等、業務に必要な制服や備品・器具を労働者に購入させる会社は意外と多いように見受けられます。このような労働者負担には、法律上問題となるケース、ならないケースがあることをご存じでしょうか?

「労働者負担」に関わる事柄は、雇入れ時の労働条件明示事項

「仕事上必要なものを会社が支給しない(労働者負担とする)」というと、どうも法律上問題があるのではないかと思えてしまうかもしれません。しかしながら、あらかじめ労働者に正しく周知することで、法律上問題なく認められます。正しく周知する方法として、具体的には「雇入れ時の明示」と「就業規則への記載・周知」です。

雇入れ時の労働条件明示事項

労働基準法第15条第1項には、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」と規定されています。具体的な明示事項は、労働基準法施行規則第5条第1項に規定される通りで、労働者負担に関わる項目として「労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項」が盛り込まれています。なお、労働者負担に係る周知は、口頭での説明や就業規則の掲示等によって行うことが認められていますが、トラブル回避のためには書面での明示が望ましいでしょう。

参考:厚生労働省「採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。

話は逸れますが、労働条件明示事項については2024年度より新ルールが適用されています。こちらも併せてご確認ください。

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就業規則への記載・周知

「食費、作業用品などの負担に関する事項」は、就業規則の相対的必要記載事項でもあります。


出典:厚生労働省「就業規則を作成しましょう

労働者負担を事業場のルールとする場合、雇入れ時の労働者への明示と共に、就業規則に規定し周知することも忘れてはなりません。

明示・周知さえすれば何でも許されるわけではない!「労働者負担」の合理性を検討

このように、業務上必要な物品の労働者負担は、「雇入れ時の明示」「就業規則への記載・周知」の手順を経ることで法律上、可能となります。しかしながら、どんなものでも労働者に負担させて良いかといえば、そうではありません

「仕事を離れても使えるもの」なら労働者負担に合理性あり。高額なら手当支給の検討を

まず、厨房靴や工具等、その会社の業務を離れても個人的に使うことができる物を購入させる場合、労働者負担に関わる合理性が認められる可能性は高いと言えます。
工具については高額な負担額が労使トラブルの火種となる可能性もありますが、一度揃えれば他の会社に入った際にも使えますから、現状工具を持っていない労働者が自腹で購入するとしても大きな問題には発展しにくいです。なお、会社が「工具手当(労働者が自己負担で用意した工具に対する手当)」を支給するケースも多く、このような配慮があるとより一層、労働者の納得感が得られやすいでしょう。

「会社独自のもの」については、合理性・リスクの観点から、貸与とするのが原則

一方で、その会社の仕事にしか使えないもの、例えば業務で着用する制服や、塾講師が指導に使う教材等に関しては、労働者負担とすることに合理性ありとは考えにくいです。もっとも、労働者負担をさせるということは、所有権は労働者にあり、退職後に返却を求めることができません。その点で、制服や教材等その会社独自の物品が退職した労働者の手元にあることのリスク(なりすまし、悪用)を考慮すれば、会社貸与とするのが原則となるでしょう。なお、建設業のヘルメット等、労働者の安全・健康確保に関わる物について、これを会社が準備しないとなれば、安全配慮義務の観点から問題となりますのでご注意ください。

「労働者負担」のある会社は、今一度、適正性の見直しを

今号のテーマである「労働者負担」については、会社側が判断に悩むケースもあると思います。まずはその「合理性」や「リスク」を十分に考慮し、労働者負担をさせる場合には「雇入れ時の明示」「就業規則への記載・周知」を徹底しましょう。くれぐれも「業務上必要な物にもかかわらず、事前の説明もなく労働者に購入させた」ということにならないようにしましょう。

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