年次有給休暇の買い取りは違法?労使トラブル回避のための有休買い取りルールを再確認

年度末・年度初めを目前に控え、多くの企業で従業員の入退社が多く生じる季節を迎えています。従業員の退職に伴い、しばしば労使間でトラブルになるのが「未消化分の年次有給休暇の取扱い」です。就業規則等で有休の買い取りを規定するケースを散見しますが、インターネット上では「買い取りが違法」等との情報を目にすることもあり、判断に迷われるご担当者様も多いのではないでしょうか?また、有休の買い取りを認めていない現場でも、従業員から買い取り希望が出されることもあります。今号では、有休買い取りにまつわる実務対応を確認しましょう。

年次有給休暇の買い取りは、その趣旨からして原則禁止。ただし例外的に認められるケースも

大前提として、年次有給休暇の買い取りは原則として認められません。というのも、法定の年次有給休暇制度は「労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るため、また、ゆとりある生活の実現にも資するという位置づけから、法定休日のほかに毎年一定日数の有給休暇を与える制度」であることから、これをお金に換えるとなると制度本来の趣旨を逸脱してしまうからです。

例外的に買い取りが認められる年次有給休暇 3つのケース

一方で、例外的に有休買い取りが認められる場合もあります。具体的に、以下3つのケースのいずれかに該当する有休については、会社が任意に買い取りを認めることができます。

《例外① 法定付与日数を上回る部分の年次有給休暇》
有休の年間付与日数は労働基準法により定められていますが、最近では福利厚生の一環として、法定を上回る有休を付与する会社も珍しくありません。この場合、法定を上回る有休付与分に関する取扱いは就業規則等の定めによるところとなりますので、会社が買い取りを認める規定を設けたとしても何ら問題にはなりません。

《例外② 時効によって消滅済みの年次有給休暇》
有休は、発生した日から2年間で時効により消滅します。この消滅分の有休について、会社が買い取りの対象とすることは問題ありません。ただし、通常の有休取得時の賃金と比較して買い取りの額が高額である場合や、当初から買い取りを前提に年次有給休暇を取得させない等の取扱いは、有休取得を妨げる事案として問題となります。

《例外③ 退職者が消化しきれない部分の年次有給休暇》
退職までにすべての有休を取得できるのが理想ですが、業務上、それが叶わないケースは多々見受けられます。当然のことながら、有休取得の権利は退職後に行使することができず、その会社との雇用関係が無くなると同時に消滅するものです。このような場合、会社側が未消化分の有休の買い取りを認めることには何ら問題ありません。就業規則等で、退職時の有休買い取りが規定されているケースもあるでしょう。

従業員から年次有給休暇の買い取り希望が出た場合、会社は拒否できる?

これまで積極的に有休買い取りを認めてこなかった現場においても、従業員側から買い取り希望が出されるケースについて想定しておきましょう。今や、インターネット上であらゆる情報を収集できる時代です。前述の例外的な有休買い取り事例を知った従業員から、いつ「有休を買い取って欲しい」との声が上がるか分かりませんね。
結論から申しますと、会社は必ずしも有休買い取りを認める必要はなく、従業員の買い取り希望を拒否することができません。そもそも有休本来の趣旨に鑑みれば、休暇をお金に換えることは望ましい取扱いではないからです。ただし、会社がこれまで積極的に有休取得促進に取り組んでこなかった、人手不足や業務過多等で従業員が有休を取得できるような状況ではなかった等、会社側に有休取得を妨げる要因があった様な場合には、買い取りを認めることも前向きに検討する必要があるでしょう。同時に、今後は有休を取得しやすい職場体制に整えていくことも重要です。

労使トラブルを未然に防ぐ!年次有給休暇の買い取りへの実務上の対応

有休買い取りへの対応は、「その時になってから」ではなく、日頃の労務管理の一環として行うのが得策です。まずは、会社として従業員の有休取得率向上に取り組むこと。年次有給休暇の年5日取得義務への対応はもちろんのこと、有休取得を従業員任せにせず、会社が有休の管理・取得促進を行うことが大前提です。

年次有給休暇の買い取りルール、就業規則への規定はどうする?

年次有給休暇の買い取りルールは、前述の例外的なケースについて就業規則等に規定しても問題ありませんが、その内容によっては「買い取りを前提として、有休を取得しない」と判断する従業員も出てくるかもしれません。そのため、「有休買い取りに関しては、退職時の未消化分等やむを得ない場合のみ、特別に認める」といった趣旨の取り決めが適切です。

退職に伴うルールも併せて整備

退職に際し、従業員は有休をすべて取得できるのが理想です。とはいえ、退職前に有休残日数をすべて取得されてしまうとなると、業務の引継ぎ等が滞る等の問題が想定されます。そこで重要なのは、退職関連のルール作りです。具体的には、「余裕をもった退職時期(退職の申し出は1ヶ月前までに行うこと等)」「退職前の現実就労(業務引継ぎのために必要な期間を現実的に就労しなければならない等)」「引継ぎを行わなかった場合の懲戒処分(退職金の減額等)」の設定が考えられます。このうち「退職前の現実就労」に関して、「2週間」等の具体的な期間を規定する就業規則を散見しますが、実務上は、引継ぎ対象業務や有休残日数等を考慮の上、労使間で話し合って計画的に行っていくようにしましょう。

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