多様な働き方の実現を目指す働き方改革の追い風を受け、労働関係法令の改正が進んでいます。とりわけ2021年中は、改正労災保険法の施行により、フリーランスに対する労災適用の範囲拡大が顕著です。今号では、2021年4月より対象となった4事業及び作業、さらに2021年9月から新たに対象となる2事業及び作業について解説しましょう。
目次
フリーランスへの労災適用を可能にする「特別加入制度」とは?
2021年中に新たに労災保険の特別加入の対象範囲となる事業・作業を解説する前に、まずは「労災保険の特別加入制度とは?」について理解しておきましょう。
労災保険の特別加入制度とは、事業主に雇用されて賃金を受ける労働者以外の方のうち、業務の実態、災害の発生状況からみて、労働者に準じて保護することがふさわしいと見なされる個人事業主等に対し、労災保険に特別に加入することを認める制度のことです。
労災保険の特別加入には、中小事業主等・一人親方等・特定作業従事者・海外派遣者の4種のパターンがあり、これらはいずれも通常の労災保険の適用対象外とされています。
このたび、個人事業主等としてフリーで仕事をされる方が、以下に挙げる対象事業・作業に従事する場合、新たに労災保険特別加入制度の適用範囲として認められることになりました。
2021年4月1日から労災保険特別加入の対象となった4事業・作業
2021年4月1日から、以下の方について新たに特別加入制度の対象となります。
いずれも第2種特別加入保険料率は1000分の3です。
✓ 芸能関係作業従事者
✓ アニメーション制作作業従事者
✓ 柔道整復師
✓ 創業支援等措置に基づき事業を行う方
参考:厚生労働省「令和3年4月1日から労災保険の「特別加入」の対象が広がります」
芸能関係作業従事者とは?
俳優や舞踊家、演芸家、スタント等の「芸能実演家」、さらに監督や照明、衣装、大道具制作、メイク、マネージャー、アシスタント等の「芸能制作作業従事者」が含まれます。ただし、いずれも職種を限定するものではないため、特別加入の可否は業務内容等の実態から判断されます。
アニメーション制作作業従事者とは?
声優を除き、アニメーション制作関係の作業に従事する場合には原則対象とされます。具体的な作業には、キャラクターデザイナー、作画、絵コンテ、原画、背景、監督、演出家、脚本家、編集等があります。声優については、芸能関係作業従事者として特別加入が認められます。
柔道整復師とは?
柔道整復師法第2条に規定する柔道整復師が行う事業に従事する方で、
- 労働者以外の者で、労働者を使用しないで事業を行うことを常態とする者
- 労働者以外の者で、①が行う事業に常態として従事する者
が対象となります。
創業支援等措置に基づき事業を行う方とは?
創業支援等措置とは、高年齢者等の雇用安定に関する法律に基づく、65歳から70歳までの就業確保措置のうち、以下の雇用に依らない措置を指します。
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
⇒事業主が自ら実施する社会貢献事業
⇒事業主が委託、出資等する団体が行う社会貢献事業
今回労災保険の特別加入対象となったのは、創業支援等措置に基づき、
- 労働者以外の者で、労働者を使用しないで事業を行うことを常態とする者
- 労働者以外の者で、①が行う事業に常態として従事する者
が対象となります。「創業支援等措置に基づき事業を行う方」の定義については少々分かりづらく、判断に迷うかところがと思いますが、詳しくは社労士までお問い合わせください。
2021年9月1日より新たに労災保険特別加入の対象となる2事業・作業
また、2021年9月1日からは、以下の2事業及び作業について、労災保険特別加入の対象範囲となります。
- 原動機付自転車又は自転車を使用して行う貨物の運送の事業
(第2種特別加入保険率:1000分の12を予定)
※「原動機付自転車を使用して行う貨物の運送の事業」については、これまで通達において特別加入の対象と認められてきましたが、このたび省令において明確化 - 情報処理システムの設計等の情報処理に係る作業
(第2種特別加入保険率:1000 分の3を予定)
参考:厚生労働省「第98回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料」
①はコロナ禍で需要が拡大したフードデリバリーの宅配代行業に従事する方であり、一例としてウーバーイーツの配達員が挙げられます。②はフリーランスのITエンジニア等です。①については配達中の事故、②では腰痛やストレスによる精神疾患等の労働被害がかねてより問題視されており、このたび特別加入対象範囲に加えられることになりました。
多様な働き方の実現に向け、少しずつ法整備が進められつつあります。事業主様や企業の人事労務ご担当様であれば、働き方改革の進展、変わりゆく労働環境に対して常に敏感でありたいですね。
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