持続可能な開発目標(SDGs)と、人事労務管理の関係とは【特別なことは重要ではない】

昨今、企業の経営層を中心に「SDGs」というワードが注目されています。

SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を取った略称で、国連の加盟国である193か国が2016年から2030年の15年間で達成する17の目標のことを言います。
2015年9月に国連サミットで採択され、現在グローバル企業を中心に経営戦略上の軸として目指すべきターゲットとなっている「SDGs」ですが、少しずつ経営の軸に取り組もうとする企業が増えています。

しかし、弊社でも人事部門のご担当者から「経営層から『SDGsを軸とした経営戦略を実施するため各部門が達成の行動目標を作るように!』と言われているが、正直なにから手を付けていいのかわからないんです・・・」というお声を最近耳にします。

そこで、今回はSDGsという経営軸で、人事・労務部門がどのような取り組みをできるのかについて考察していきたいと思います

そもそもSDGsとは。労務管理との関係とは

まずは「17の目標」を確認しましょう。

<17の目標>
1. 貧困をなくそう
2. 飢餓をゼロに
3. すべての人に健康と福祉を
4. 質の高い教育をみんなに
5. ジェンダー平等を実現しよう
6. 安全な水とトイレを世界中に
7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに
8. 働きがいも経済成長も
9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
10. 人や国の不平等をなくそう
11. 住み続けられるまちづくりを
12. つくる責任 つかう責任
13.気候変動に具体的な対策を
14. 海の豊かさを守ろう
15. 陸の豊かさも守ろう
16. 平和と公正をすべての人に
17. パートナーシップで目標を達成しよう

※外務省HPより転載

17の目標は、飢餓や教育から気候変動等まで多岐にわたっていますが、ざっくり言えばこれらの17の目標を達成することによって、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」持続可能な平和な世界が実現しようというのがSDGsの狙いです。

日本でも大手企業を中心に、SDGsを企業経営の軸に組み込もうというようなところが増えてきていますし、すでにHP等でSDGsへの取組を公表している企業も多くなっています。
また、SDGsに取組むことで投資家からの評価の向上などが見込めるということもあり、大企業や一部のグローバル企業に限らず、最近では感度の高いベンチャー企業の経営者からも注目されています。

17のGoalから人事労務部門が取り組みやすい代表的な目標とは?

SDGsの17の目標の中でも、内容によっては特段人事労務部門にはなかなか縁遠いというようなものもあります。

しかし、下記の目標については人事部門に関わりが深いものと考えられます。

3. すべての人に健康と福祉を

例えば、自社の従業員の健康を守るような人事労務施策をとることはこの目標への取組となります。

労働基準法上の残業規制や安全衛生法上の過重労働防止措置などについてコンプライアンス遵守をあらためて徹底し、できていないことがないかを洗い出すという事や、さらに踏み込んだ施策としては、法定検診を上回るような人間ドッグを会社でも一部費用負担として従業員に受診させる機会を与えるということもこの目標につながります。
ある大手損害保険会社などは、社員食堂内で従業員のために健康や栄養に配慮したメニューを提供しているそうですが、これも立派な取り組みです。

また、弊社の顧問先ではスポーツジムと提携して従業員が就業時間外や休日にも参加できるトレーニングプログラムなどを提供している企業がありますが、こうした取り組みもSDGsの一貫として再定義することができます。

本目標は、人事労務部門にとってダイレクトにつながる目標と言えます。

5. ジェンダー平等を実現しよう

こちらも、人事労務部門にも関連が深い目標と言えます。
なお、国連の掲げているこの目標には更に細かいターゲットとして「あらゆる場所におけるすべての女性および女子に対するあらゆる形態の差別を撤廃する。」という女性への差別の撤廃や「政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参加および平等なリーダーシップの機会を確保する。」
といったものがあります。

すでに多くの企業で徹底されつつありますが、労働条件の格差を男女でなくすといったことはジェンダー平等に寄与すると言えますし、女性の管理職等の登用等もリーダーシップの機会を確保する取り組みに該当すると言えます。

なお、昨今では男性・女性というのみにとどまらず、LGBTといったセクシュアルマイノリティーの方やLGBTだけではくくれない個々人のセクシュアリティについての社会的な関心が高まっており、こうした広い概念において差別をなくすということもより発展的な取り組みと言えそうです。

人事労務部門としてあらてめてセクシュアルマイノリティや個々人のセクシュアリティを尊重するといった方針を打ち出し、必要に応じて経営理念や就業規則等に盛り込むとよりメッセージが強調できます。

8. 働きがいも経済成長も

「働きがい」という言葉がでてくるとおり、こちらも人事労務部門にとってはダイレクトに直結する目標と言えます。

本目標の中の更に細かいターゲットとして、「2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性および女性の、完全かつ生産的な雇用およびディーセント・ワーク(働き甲斐のある仕事)、ならびに同一労働同一賃金を達成する。」というものがあります。

働き方改革において、短時間労働者や有期雇用者と正社員の間の不合理な格差を是正するために均等待遇・均衡待遇が義務化されましたが、これも実はSDGsの一つととらえることができます。
中小企業は現在同一労働同一賃金については猶予されているところですが、こうしたコンプライアンス遵守がひいてはグローバルな取り組み目標につながっていると考えるとより意義を感じることができるかもしれません。

10. 人や国の不平等をなくそう

本目標の中の更に細かいターゲットとして「2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、すべての人々のエンパワーメント、および社会的、経済的、および政治的な包含を促進する。」というものがありますが、いってしまえば、性別の違いや障害の有無、国籍や宗教の違いに関係なく公平な世界を実現するという目標です。

人事労務の観点からは、採用・雇用・賃金・昇進等それぞれのフェーズで障害の有無や性別の違い、国籍の違いで差別をしない公正な労働環境を実現するということがこれに該当すると言えるでしょう。

SDGsと人事労務の関係性まとめ

ここまで、人事労務部門に関連する代表的な目標を見てきましたが、大枠でSDGs的な労務の方針をとらえると下記のようにまとめられます・

①ダイバーシティー・多様性の確保
性別や、障害の有無、国籍、宗教の違い等で差別することなく、多様性を認め合う組織づくりをおこなうこと

②多様性における不公平な処遇等の撤廃
多様性の確保というのは①で述べた通りですが、その多様性の中で労働条件等の不公平な処遇をなくしていく、正社員と有期雇用者、短時間労働者の間の不合理な格差を是正するというということや、障害の有無に関わらない公平な機会の付与、出身国で賃金に格差を設けないといったこと

③従業員の健康に配慮した労働条件の確保
従業員の過重労働に頼る労働環境は企業にとっても「持続可能」な状態とも言えず、社会にとっても持続可能な環境とはいえません。健康経営に取り組むこと

労務関連法をしっかり守ることが大切

国連サミットで採択された概念…と言われるとなんだかとっつきにくいように思いますが、本稿で見てきた通りSDGsは日ごろの人事労務部門の仕事と密接に関わっています。

SDGsの取り組み目標のうち、エネルギー関連や気候変動、資源の保全などといった目標は、自社のサービスとの関連がない限りなかなか取り組むことへのハードルが高いように感じられるかもしれませんが、本稿で取り上げたような内容はどの企業であっても人事労務部門が取り組むことができるような内容です

しかも、とりわけなにか新たな壮大な取り組みが必要というよりは、労働基準法や労働安全衛生法、障害者雇用促進法、男女雇用機会均等法といった、日ごろ人事労務部門が守らなければならない労働関連法をしっかりと守っていくことができていれば、SDGsの取組にもつながっているのです

どこの人事部門も「法改正があるから仕方なく対応する・・・」といった一面があるのは致し方ないことではありますが、日ごろの法改正対応がこうしたSDGsといったグローバル基準の取り組み目標につながっていて、そうした目標への取組を企業として示すことによって、企業を取り巻く投資家やステークホルダーからの評価を高めることができます。

SDGsはなにも大企業だけのものではありません。これを機に、中小企業、ベンチャー企業やスタートアップ企業の皆さんも「自社としてどうSDGsに取組むんでいくのか」ということを考え、経営戦略につなげていくことをお勧めします。

寺島戦略社会保険労務士事務所 書籍紹介

4月12日に「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理――初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまで この一冊でやさしく理解できる!」が発売されました。

A5判並製184ページ
定価 本体1800円 (税別)
ISBN978-4-89795-224-6

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本書の概要

ベンチャー企業には、労務のノウハウや労働法の知識をもった担当者を専任させる余裕がなく、管理部門はどうしても手薄になりがちです。しかし、創業間もないベンチャー企業でも、未払い残業代請求などの労務トラブルに遭遇するのは珍しいことではありません。
ベンチャー企業から関心の高い裁量労働制やフレックスタイム制、年俸制、副業、リファラル採用なども、正しい理解がなく導入すると、予期せぬ労務問題に発展してしまうリスクがあります。また、ビジネスSNSやクラウド会議ツール、ピアボーナスを導入する際にも、労務的な視点が欠かせません。
本書は、多くのベンチャー企業の労務をサポートしている著者が、ベンチャー企業の労務を成長フェーズごとに体系立てて、ケーススタディを交えながら実務的にやさしく手ほどきする本。ベンチャー企業の経営者や管理部門担当者はぜひ読んでおきたい一冊です!

本書の構成

PART1◎ベンチャー企業の労務管理の全体像
「ベンチャー企業にとって労務管理はなぜ重要なのか」

PART2◎ステージ別/ベンチャー企業の労務管理
「会社がやらなければいけないことを知っておこう」

PART3◎ベンチャー企業の労務管理ケーススタディ
「どんな点に注意したらいいの? 早わかりQ&A」

PART4◎ベンチャー企業の海外進出の必須知識
「海外赴任者の労務管理で留意しておくべきこと」

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