初めて従業員を雇い入れた個人事業主、社会保険はどうする?

これまで1人で事業を営んできた個人事業主であれば、従業員の雇い入れに際して「社会保険はどうするべきか?」と頭を悩ませる方もいらっしゃるかもしれません。今号では、初めて従業員を雇入れた個人事業主が行うべき、社会保険の加入手続きを確認しましょう。

労災保険・雇用保険への加入は必須

従業員を雇い入れたら、まず行うべきは労働保険(労災保険・雇用保険)関連の手続きです。労働者の保護及び雇用の安定を図ることを目的とした労働保険(労災保険・雇用保険)は、業種や事業所規模に関わらず、従業員を1人でも雇い入れた時点で加入する必要があります。なお、個人事業主自身には、原則として雇用保険と労災保険の加入が認められません。

労働保険の成立手続の流れ

労働保険(労災保険・雇用保険)加入のための、具体的な手続きを確認しましょう。ここでは、労災保険と雇用保険の保険料の申告・納付等を両保険一本として行う一元適用事業(※)のケースを見ていきます。
※一元適用事業に対し、農林漁業や建設業等、事業の実態からみて労災保険と雇用保険の適用区分を区別し、労災保険と雇用保険を別々に処理する二元適用事業もあります

  • 労働保険 保険関係成立届[保険関係の成立日(事業開始日や従業員の雇入れ日等)の翌日から10日以内]
  • 概算保険料申告書[保険関係の成立日の翌日から50日以内]

従業員を雇い入れ、労働保険の適用事業となったら、まず「労働保険 保険関係成立届」を所轄の労働基準監督署に提出します。併せて、当該年度分の労働保険料(保険関係が成立した日からその年度の末日までに労働者に支払う賃金の総額の見込額に保険料率を乗じて得た額)を算出し、「概算保険料申告書」において概算保険料として申告・納付します。
なお、「概算保険料申告書」については、手続期限が「保険関係の成立日(事業開始日や従業員の雇入れ日等)の翌日から50日以内」となっていますが、保険関係成立届と同時に行うのが一般的です。

  • 雇用保険 適用事業所設置届[設置の日(事業開始日又は対象従業員の雇入れ日等)の翌日から起算して10日以内]
  • 雇用保険 被保険者資格取得届[資格取得の事実があった日の翌月10日まで]

「1週間の所定労働時間が20時間以上であること」「31日以上の雇用見込みがあること」の2要件を満たす従業員を雇い入れ、雇用保険の適用事業となった場合は、①のほかに、「雇用保険適用事業所設置届」及び「雇用保険被保険者資格取得届」を所轄の公共職業安定所に提出します。
「雇用保険 被保険者資格取得届」については、手続期限が「資格取得の事実があった日の翌月10日まで」となっていますが、実務上、適用事業所設置届との同時提出が求められます。

参考:厚生労働省「労働保険の成立手続

個人事業主自身も、労災保険に特別加入できる場合がある

前述の通り、労働保険(労災保険・雇用保険)は労働者のための保険であることから、原則として個人事業主自身の加入は認められていません。ただし、実際の業務の状況や労災発生状況等から、個人事業主についても労働者同様の保護が妥当とされる場合、労災保険については特別加入ができるようになっています。労災保険の特別加入に関わる詳細は、以下よりご確認いただけます。

参考:厚生労働省「労災保険への特別加入

健康保険・厚生年金保険への加入は、業種や従業員数によって異なる

個人事業の場合、法律上、厚生年金保険および健康保険の加入が義務づけられている事業所は、「常時5人以上の従業員が働いている事業所、工場、商店等の個人事業所(ただし、サービス業の一部や農業、漁業などの個人事業所を除く)」に限定されます。「常時5人以上」とは、「正社員と、週の所定労働時間及び月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の3/4以上の従業員の総数が5人以上」という意味で、これに該当する個人事業所は「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」の届出をします。
一方で、従業員数5人未満の個人事業所は、健康保険・厚生年金への加入は強制されていません

5人未満の個人事業所で、従業員を健康保険・厚生年金保険に加入させる「任意適用」

ただし、5人未満の個人事業所であっても、従業員を健康保険・厚生年金に加入させることは可能です。これを「任意適用」と言います。任意適用事業所となるためには、事業所の被保険者となるべき従業員の2分の1(半数)以上の同意を得て、「健康保険・厚生年金保険 任意適用申請書」を事務センターまたは管轄の年金事務所に提出し、厚生労働大臣の認可を受ける必要があります。この届出により任意適用の認可を受けた場合、被保険者要件を満たす従業員全員が健康保険・厚生年金保険に加入することになります。なお、任意適用申請の事業所の場合、健康保険のみ・厚生年金保険のみのどちらか一つの制度のみ加入することも可能です。

任意適用を受ける際の提出書類は、以下の通りです。

  • 任意適用申請書
  • 任意適用同意書(従業員の2分の1以上の同意を得たことを証する書類)
  • 事業主世帯全員の住民票(コピー不可)
  • 公租公課(※)の領収書(原則 1 年分)(コピー可)
    ※所得税(国税)、事業税(道府県税)、市町村民税(市町村税)、国民年金保険料、国民健康保険料等、いずれか

参考:日本年金機構「任意適用申請の手続き

任意適用申請書と併せて、事業所の対象者全員の「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」の手続きを行います。

任意適用を受けても、個人事業主自身は健康保険・厚生年金保険に加入できない

任意適用について一つ注意すべきは、「個人事業主自身は加入できない」ということです。個人事業所が健康保険・厚生年金保険の適用事業所となっても、個人事業主は健康保険・厚生年金保険に加入することはありません。そのため個人事業主は、引き続き国民健康保険・国民年金に加入することになります。一方で、法人化すると事業主自身も被保険者となります。このあたりを混同しないように注意しましょう。

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