企業において「女性活躍の推進」は、ますます深刻化する人手不足時代を乗り切るカギとなると考えられています。「女性は結婚したら仕事を辞めて家庭に入るもの」とされてきた時代は一変、女性を積極的に活用することは今や働き方改革の施策の一つに数えられ、多くの現場でその実現に向けた取り組みに試行錯誤しています。現状、中小企業等では「女性活躍の推進に向けて、新たに独自制度を設けることは難しい」と感じられているかもしれませんが、そのような場合、まずは既存の制度が十分に活きているかの点検から始められることをお勧めします。
法に定められる「生理休暇」を形骸化させない
女性活躍の推進に不可欠なのは、「女性が長く働きやすい職場環境作り」です。そう聞いて、真っ先に思い浮かぶのは「仕事と育児の両立支援」だと思いますが、この分野については近年政府主導で整備されていることは、すでに皆さんご存知の通りです。今後、2022年には改正育児・介護休業法の施行により、一層拡充されていく見込みです。現場においては、目下、対応準備を進められていることと思います。
関連:厚生労働省「育児・介護休業法について」
今号で注目したいのは、労基法に定められる法定休暇にも関わらず、取得率が伸び悩む「生理休暇」の活用です。
「生理休暇」とは?
本稿をお読みの方の中には、「生理休暇」というキーワードを初めて耳にした方もいらっしゃるかもしれません。ともすればどこかの大企業の独自休暇制度かと思われてしまいそうですが、実は労基法第68条に規定されるれっきとした法定休暇のひとつ。1947年の労基法公布時には、すでに盛り込まれていた制度です。
労働基準法第68条
使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。
おそらくほとんどの企業の就業規則に「生理休暇」の条文が盛り込まれているものと思われますが、その知名度は決して高いとは言えません。厚生労働省の調査によると、「生理休暇を請求した女性労働者の割合は全体の1%ほど」というデータがあるほどです。
生理中の就労が困難なことは、決して珍しくありません
女性であれば、「生理中に働くのは辛い」と感じる、もしくはご自身にはそれほど辛い症状は出ないまでも「生理中の就労困難について理解はできる」という方は多いのではないかと思います。一方で、生理を経験し得ない男性労働者の中には、「理解しようにもできない」という方がいてもおかしくないでしょう。
しかしながら、実際のところ、生理に伴う強い倦怠感や腹痛によって、業務遂行に支障をきたすケースは珍しくありません。ちょうど先日、2021年11月28日には、大阪メトロ・谷町線の出戸駅で電車が40mほどオーバーランしたという報道がありましたが、この車両を運転していたのが女性運転手で「生理中で急に強い倦怠感があった」と話しているとのこと。ここまでのことではなくとも、仕事で普段はしない様なミスをしそうになった、してしまったという女性は少なくないのではないでしょうか?
「生理休暇」は働く女性の権利です
生理中の業務遂行が厳しい女性に対し、会社は無理をさせて働かせるべきではありません。女性労働者がいる職場においては、生理中であっても普段と変わらず過ごせる女性がいる一方で、そうでない方も一定数いることを前提に、法定の生理休暇を請求しやすい雰囲気作りや制度整備に取り組む必要があります。
チェックしよう!「生理休暇」に関わるルール
「休暇」は、就業規則上の絶対的必要記載事項のため、生理休暇についても例外なく盛り込まなければなりません。御社の就業規則では、「生理休暇」についてどのように規定されているでしょうか?しばしば、生理休暇の請求の妨げとなる様な制限を設けているケースを散見しますが、生理休暇の本来の趣旨に鑑みれば、こうした取扱いは認められませんので注意が必要です。以下に、よくあるNG規定を挙げておきます。
→取得日数に制限を設けてはいけません
ただし、生理休暇を有給とする場合には上限日数を定めることができます
その場合、有給とする上限日数を超える取得分は無給の生理休暇の取得とします
→診断書等がなくとも、原則、請求によって取得させなければなりません
→正社員だけでなく、契約社員やパート・アルバイトでも取得できます
以下の取扱いについては判断に迷われる部分ですので、解説しておきましょう。
→有休・無給の別は会社が定めることができます
あらかじめ賃金規程等に取扱いを定めておくことでトラブルを回避できます
→時間単位や半日単位で請求があった場合、それに応じる必要があります
→虚偽の申請で生理休暇することはできず、懲戒処分の対象とすることができます
懲戒規定に不正取得の際の取扱い盛り込んでおきましょう
休暇制度に関わる検討に際しては、「職場風土の醸造」にもセットで取り組む必要があります。まずは経営陣が休暇の意義や必要性を正しく認識し、職場で働くすべての労働者に伝えていくことが肝心です。生理休暇の請求については、少なからず「不公平だ」と捉えられがちですが、生理休暇以外の休暇(有休休暇や会社の特別休暇等)の活用も同時に促進していく等、男女を問わず「必要なときに休みをとりやすい職場」の実現を目指すスタンスが求められます。