休職制度に規定すべき「療養専念義務」|休職中の趣味活動やSNS投稿への対応策を考える

季節の移り変わりと共に、残暑の中にも少しずつ秋の気配が感じられるようになってきました。こうした季節の変わり目には、従業員のメンタルヘルス不調に注意が必要です。御社には、「最近元気がないな」と感じられる従業員はいらっしゃらないでしょうか?近年、適応障害やうつ病等の精神疾患による休職は増加傾向にあることから、折を見て休職制度を見直されてみることをお勧めします。今号では、「非定型うつ」「新型うつ」で問題となりやすい、療養専念義務違反に関わる規定の必要性について考えてみましょう。

「非定型うつ」「新型うつ」とは?

職場の「うつ」というと、従来は真面目で几帳面な方が、仕事上のノルマ等への悩みや、転職、転勤、昇進といった変化をきっかけに、自責感や罪悪感にさいなまれて発症し、追いつめられるケースが大半でした。
ところが、昨今増加傾向にある「非定型うつ」「新型うつ」は、従来のうつとは大きく様相が異なります。例えば、出勤時にはうつ症状があらわれるのに休日の趣味活動は活発、欠勤や休職に際して周囲に迷惑をかけているという認識に乏しく権利ばかり主張する、すぐに人のせいにする等、対応に苦慮する現場が増えているようです。これらのいわゆる「非定型うつ」「新型うつ」は、近年、労務管理を難しくさせる要因になっています。

休職中の趣味活動や旅行、SNS投稿・・・職場はどこまで関与できるのか

御社の従業員が、「非定型うつ」「新型うつ」といわれる精神疾患によって休職するとします。この場合、業務外の病気によって就業が困難になったことにより私傷病休職の扱いとなり、事業主は会社の休業制度に則って、従業員は就業を免除されます。休職中、従業員は当然のことながら療養に専念することとなりますが、万が一、休職者が制度の趣旨や会社の想定とは異なる過ごし方をしていることが分かった場合、会社はどう対応するのが適切なのでしょうか?

趣味活動や旅行は直ちに問題視できない

例えば、「休職中に趣味活動に没頭しているようだ」「たびたび旅行に行っている」ということが判明した場合、一見すると休職中の従業員に課せられている療養専念義務に反していると考えられ、戒告(厳重注意)等の懲戒処分の対象になり得るのではないかという議論があります。しかしながら、一般社団法人日本産業保健法学会によると、「休職期間中に趣味の活動をしていることをもって直ちに懲戒処分を行うことは適当でないことが多い」とのこと。というのも、私傷病休職期間中の音楽活動や旅行等の趣味的な活動については、例えば腰のケガや病気でそれらの活動が病態・症状を悪化させるおそれがあるならばともかく、精神疾患で意欲の低下が主な症状である場合には、こうした活動が精神衛生上良い方向に働いて療養につながる場合があり、一概に療養専念義務違反と判断することはできないという見解となるからです。
これを裏付けるのが、マガジンハウス事件(東京地判平成20年3月10日)の判例です。うつ病や不安障害を理由に休職していた者が、オートバイで頻繁に外出していたこと、ゲームセンターや場外馬券売場に出かけていたこと、飲酒や会合への出席を行っていたこと、宿泊を伴う旅行をしていたことなどに対して、使用者が療養専念義務に違反して解雇事由に該当すると主張した事案で、裁判所は、「うつ病や不安障害といった病気の性質上、健常人と同様の日常生活を送ることは不可能ではないばかりか、これが療養に資することもあると考えられていることは広く知られている」ことを一般論として述べた上で、結論として、上記による私生活上の活動が休職者のうつ病や不安障害に影響を及ぼしたとまでは認められないとして、これらの行動を特段問題視することはできないと判断しました

一方で、休職中のSNS投稿に関して、会社側が注意を促すことが可能

ところが、「たとえ医学的に妥当な診断を得て休業中に『好きなこと』を行うことを許された労働者であっても、そのことを職場に吹聴するような行動をとれば、職場秩序を乱したとして、該当する就業規則規定を根拠に懲戒処分等の人事措置を講じることもおおむね正当化されると解される」との意見もあります(三柴、労働基準広報2010.11.11)。休職者が労働を免除されている間、欠員分の仕事のカバーをするのは、当然のことながら現場で働く他の従業員たちです。この人達への配慮として、休職中のSNS投稿への注意を促すことは、一般的な服務規律である「会社又は職場の風紀、秩序を乱さないこと」を根拠とした対応として、適切であると考えることができます

参考:一般社団法人日本産業保健法学会「「産業保健職の現場課題に応える」Q&A

新型うつ対策を考慮した休職規定を設け、例外なく適用する

現状、就業規則に休職規定を設けている会社は多いと思いますが、この制度を非定型うつや新型うつに適用することを想定し、今一度見直しをされてみることをお勧めします。休職制度はどの職場でも必ず定めなければならないものではありませんが、何のルールもなければ、万が一従業員に休職の必要が生じた際にスムーズな対応が困難です。
休職制度は会社ごとに比較的自由に定めることが可能です。社会的に職場におけるメンタルヘルス不調者数が増加傾向にあることに鑑みれば、非定型うつや新型うつを休職対象となる傷病に含めるのが望ましいと言えますが、実務対応を想定するならば、併せて「療養専念義務」「必要な場合の主治医への意見聴取」「指定医等への受診」「逸脱行動の可否を会社の許可制とする」等の検討も進める必要があります。また、休職期間の設定、復職の基準、復職と休職を繰り返す場合の通算ルールについても明確に定め、実際の制度運用に際しては、本人から規定を上回る要望が出たとしても極力例外を認めず、あくまで就業規則を根拠に「休職中に認められること、認められないこと」「会社としてできること、できないこと」を示すようにする姿勢も大切です。

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