副業・兼業者の割増賃金算定ルール、「労働時間通算」が見直しへ

早いもので、2024年も年末を迎えています。今年は2019年の働き方改革関連法施行から5年が経過し、規定の通り、働き方改革関連法令の見直しが行われた一年でした。2024年の初めから議論が進められてきた労働基準法改正の具体的内容に関して、この12月、労働基準関係法制研究会から報告書(案)が公開されました。今号では、報告書(案)に盛り込まれた「副業・兼業の場合の割増賃金」について、見直しの方向性を確認することにしましょう。

副業・兼業者の労働時間通算ルールは維持する一方、割増賃金の支払いについては通算しない方針

労働基準法第38条は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定め、この「事業場を異にする」については「事業主を異にする場合をも含む」(昭23・5・14基発第769号)と解釈されています。
この労働基準法のルールに則り、現行の副業・兼業者の労働時間・割増賃金ルールは以下のようになっています。

✓ 使用者は、労働者の自己申告などで、副業・兼業先での労働時間を把握し、
自社での労働時間と足し合わせます

✓ 副業・兼業先での労働時間を自社での労働時間と合わせた結果、自社での労働が、
1週40時間または1日8時間を超える法定外労働に当たる場合、36協定の締結、届出、
時間外労働に対する割増賃金の支払いが必要になります

✓ さらに、自社と副業・兼業先での法定外労働の時間と休日労働の時間を合わせて、
単月100時間未満、複数月平均80時間以内とする必要があります

参考:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン

副業・兼業者の労働時間の基本方針、改正の方向性

このように、現状、副業・兼業者の労働時間及び割増賃金支払いには、本業先と副業先の労働時間の通算ルールが適用されています。ところが、このたび労働基準関係法制研究会が公開した報告書(案)では、割増賃金支払いに関してはこの通算ルールを適用しない方針が明記されています。見直しの背景には、企業側の負担軽減、副業・兼業の更なる促進があり、労働時間通算の煩雑さが障壁となり、雇用型の副業・兼業の許可や受入れが難しくなるといった実情を踏まえたものです。ただし、同一の事業者の異なる事業場で働いている場合、労働者が出向先と出向元で兼務する等、使用者の命令に基づき異なる事業場で働くケースでは、引き続き割増賃金算定時の労働時間通算ルールの適用が妥当とされています。
また、労働者は使用者の指揮命令下で働く者であり、使用者が異なる場合であっても労働者の健康確保は大前提であることから、健康確保のための労働時間管理として労働時間の通算は引き続き採用していくべきとされています。健康確保のための労働時間の通算管理を適正に行うための労働時間に関する情報の把握方法、労働時間の長時間化に伴う本業先と副業・兼業先の使用者の責任関係に関する考え方やとるべき健康確保措置の在り方に関しては、引き続き検討が進められ、具体的な取り組みが示される予定です。

フリーランス等、非雇用型の副業・兼業は労働関係法規の適用対象外

今号では、副業・兼業者の労働時間や割増賃金の考え方について、法改正の方向性を解説しました。現段階では2026年改正法成立、2027年4月からの施行が予定されています。

雇用関係の有無は実態で判断

ところで、今後改正が予定される労働関係法規の適用を受けるのは、本業先と副業先の双方で企業に雇用されている労働者です。フリーランス等、雇用契約に基づかない形で行う副業・兼業では、労働基準法に規定される労働時間通算は適用されません。ただし、この場合でもいわゆるフリーランス新法に則った就業環境整備が求められますので、発注事業者は適正に対応しましょう。また、契約形態が「業務委託」であっても、実態として労働基準法上の労働者と判断される場合は、同法の適用を受けることとなりますのでくれぐれもご注意ください。

参考:厚生労働省「労働基準関係法制研究会 第15回資料_労働基準関係法制研究会報告書(案)

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