育休取得推進時代の到来!妊娠・出産・育休にまつわる社内の「当たり前」を見直しましょう

昨今の政府方針に後押しされ、ひと昔前と比較すると、いずれの企業においても格段に育休取得がしやすくなってきています。とりわけ、これまで遅々として進まなかった男性の育休取得に関しては、2023年6月に閣議決定された「こども未来戦略方針」において「2030年までに取得率85%」の目標が掲げられ、今後さらに増えていくことが予想されます。企業で育休取得が奨励される一方、増加傾向にあるのが人事関連のトラブルです。妊娠・出産・育休にまつわる人事上の取扱いに際し、御社では、適切に対応できているでしょうか?

妊娠・出産・育休等を理由とする解雇・雇い止め・降格は違法です

ハラスメント防止措置の義務化に伴い、企業における「マタニティハラスメント」「パタニティハラスメント」への理解はずいぶん進んできているように思われます。しかしながら、すでに社内で常識となっている取扱い、従業員の意向に反して行われる会社側の一方的な配慮等、思わぬところに違法な取扱いが潜んでいることも珍しくないようです。

「女性は妊娠したら辞めるのが当たり前」ではありません

「女性は妊娠したら辞めるのが当たり前」等と、表立っておっしゃる方はいらっしゃらないかもしれませんが、「何となく雰囲気的にこんな感じ・・・」という職場はもしかしたらいまだにあるのかもしれません。確かに、妊娠初期にはつわりがあったり、勤務時間の短縮や休暇の取得を希望したりと、一般的に、妊娠した従業員に対しては従来通りの働き方を求めることが困難になります。だからと言って、妊娠・出産・育休等を理由に女性従業員を解雇したり、退職勧奨を行ったりすることは違法です。
また、従業員に対し「正社員ではないから、産休・育休を取得できない」との説明をするケースを散見しますが、非正規雇用であっても産休・育休を取得して働き続けることは法律に定められています(ただし、出産手当金や育児休業給付金を受給するためには要件を満たす必要があります)。

「育休復帰後の降格」は、本人の負担を軽減する目的であっても一方的に命じることは違法です

育休取得後、職場復帰をした際によく問題となるのが、「十分な説明や本人の同意もないまま行われた不利益な配置転換や降格」です。「育休中に勝手に役職から外されていた」というお話もよく伺います。
もっとも、会社としては、産休・育休取得者の人員補充に対応する必要がありますから、この流れでやむを得ず職場復帰後の従業員を従前とは異なる配置・役職に就かせることもあるかもしれません。また、仕事と育児の両立支援のために、会社からの配慮として、復職後に負担の少ない業務に従事してもらうことを提案する例もあるでしょう。
しかしながら、法律的な原則はあくまで、「原職または原職相当職への復職」です。以下の例外①または②に該当しない限り、育休復帰後の不利益取扱いは違法となります。

例外① 業務上の必要性が不利益取扱いの影響を上回る特段の事情がある
例外② 本人が同意し、一般的労働者が同意する合理的理由が客観的に存在する

法律を遵守しつつ、従業員のワーク・ライフ・バランス実現に目を向ける

前述の通り、妊娠・出産・育休等に伴う不利益取扱いは違法であり、会社側には法に則した対応の徹底が求められます。ところが一方で、一部の従業員にとっては、本来労働者保護のための法の定めがむしろ制約のように感じられ、管理職に就くことをためらったり、妊娠・出産を諦めたりす原因となることもあるようです。このようなジレンマを解消すべく、2024年4月より新たな制度導入に踏み切った企業があります。

ライフステージに応じた柔軟なキャリア形成実現の一助となる「ポストチェンジ制度」(京王電鉄)

○ 制度概要
育児・介護・不妊治療中の管理職を対象に、最大3年間にわたって職位を変更することを選択可能とする制度。
具体的には、部長級・課長級を対象に、自身の選択により、課長補佐級もしくは一般職(主任級)への移行ができる。移行期間は最大3年間とし、期間終了後は原則として移行前の職位に復帰する。

○ 導入の背景
管理職としての職責を果たしながら育児との両立を不安に感じる社員の声を受けて検討を行う中で、同じ悩みを抱える管理職がいるかもしれないという潜在的なニーズや、管理職登用にあたって、将来的なライフイベントを考え登用されることを躊躇する社員がいる可能性などを踏まえ、制度化された。

○ 目的
育児・介護・不妊治療といった大きなライフイベントに直面した管理職が、一時的に職位を変更することで業務負荷を軽減し、ワーク・ライフ・バランスの比重を可変的にすることで、ライフステージに応じた柔軟なキャリア形成の実現を可能とし、将来にわたり活躍する人財の確保ならびに社員の更なる働き甲斐の向上を目指す。

出典:京王電鉄「社員のライフステージに応じた柔軟なキャリア形成の実現を支援する「ポストチェンジ制度」を導入します!

育休取得奨励と職場改革はワンセットで

企業で育休取得が推進される中ではありますが、職場の風土醸造やそこで働く人の意識改革はまだまだ進んでいないように感じられます。「育休取得は迷惑」「男性が育休なんて」といった雰囲気をぬぐい切れていないにもかかわらず、とりあえず時代の流れに乗る形で「育休取得率を向上させる」という方針を掲げるだけでは、現場として上手くいかないこともきっと出てくるでしょう。企業で働く一人ひとりが、深刻化する少子化の現状を受け止め、ワーク・ライフ・バランス実現の重要性に目を向けると共に、ひと昔前までの社内常識の見直しを行う、各人の声を拾い上げて適切なルールや制度を検討していく。このような積み重ねがあって初めて、現場における育休取得奨励が意味を持つようになります。生きた人事制度の構築は一朝一夕ではまいりませんが、まずは職場の皆さんに「こども未来戦略方針」をご一読いただき、育休取得奨励の意義について理解を深めることから始められてみてはいかがでしょうか。

参考:内閣官房「こども未来戦略方針

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