
急速に進む少子高齢化に歯止めをかけるべく、目下、政府主導であらゆる対策が講じられているところですが、依然として厳しい現実が突きつけられます。2024年度の出生率は、過去最低となった2023年度の数字をさらに下回る見込みとのことです。深刻化する働き手不足を背景に、企業においては、人手不足関連倒産が過去最悪のペースで急増しています。人材確保のために、現場ではどのような施策が必要なのでしょうか?今号では、「再入社制度の拡充」に踏み切った企業事例を確認しましょう。
目次
2024年度の人手不足関連倒産は、昨年度の2倍に急増見込み
東京商工リサーチの調査によると、2024年上半期(1~6月)の「人手不足」を一因とする倒産は145件となっており、前年同期比116.4%増、過去最多のペースで推移しているとのことです。2023年度の年間件数は158件でしたが、2024年度上半期ではすでにこれに匹敵しており、2024年度年間件数は300超となることが見込まれています。
「人手が足りない」ことが直接的な原因に
2024年度上半期の人手不足関連倒産原因をみると、「求人難」58件(前年同期比114.8%増)、「人件費高騰」47件(同95.8%増)、「従業員退職」40件(同150.0%増)となっています。「人が集まらない」「定着しない」といった問題は多くの中小企業で挙げられる労務課題ですが、「働き手不足」が倒産の引き金ともなりかねない実情が垣間見られます。
昨年比150%増、実に2.5倍に急増した「従業員退職」
前項に挙げた人手不足関連倒産の原因のうち、注視すべきは「従業員退職」でしょう。前年同期比150.0%増、つまり2.5倍に増えており、人材定着の観点からの対策は急務と言えます。東京商工リサーチのレポートによると、その一因として「大手企業と中小・零細企業の賃上げ格差」が挙げられており、特に中小・零細企業においては賃上げや福利厚生の充実を可能とする「収益改善」への取り組みが不可欠との見解が示されています。
参考:東京商工リサーチ「2024年上半期「人手不足」関連倒産145件 調査開始以降で最悪ペース、年間最多を更新の可能性も」
働き手確保の一助となり得る、より柔軟な「再雇用制度」の構築
現場における「人材定着」が急務とはいえ、賃上げや福利厚生の充実の原資確保のための施策は一朝一夕にはいかず、ある程度時間を要するものです。企業においては、収益改善に向けた取り組みと併せて、違った観点からも対策を講じていかなければなりません。そこで注目すべき施策のひとつに、「再雇用制度」の整備があります。
イオンリテール「ウェルカムバック制度」
イオンリテールは2024年9月21日より、退職理由を問わず再入社できる新たな人事制度「ウェルカムバック制度」を開始しました。従来の再雇用制度では、対象を、結婚・出産・育児・介護などのやむを得ない事情で退職した者に限定していました。この点、新制度では、新たに「キャリアアップのための転職や留学のために退職した者」、「新卒3年以内の内定辞退者」等についても、幅広く再入社を認めています。概要は、以下の通りです。
■退職前の事前エントリーは不要で、退職理由を問わず専用ホームページから申込可能
退職前の勤続期間が1年以上の正社員、パートタイム従業員が対象
(アルバイト、GGパートナー、GGエキスパート、エルダー社員は除く)
■再入社時に、正社員かパートタイム従業員のいずれかの働き方を選択可能
一定の条件を満たす場合、処遇と連動する資格等級は退職時以上を基本とする
■新卒3年以内の内定辞退者が入社を希望する場合も新たに対象とし、採用選考を経ずに入社が可能
■今後の退職者には、ネットワークづくりのため「ウェルカムバックカード」を配布し、再入社を促す
参考:イオンリテール「ウェルカムバック制度」
中小・零細企業も注目すべき、「人材が戻ってこられる体制」作り
より柔軟な再雇用制度の構築は、単なる人材確保策としてだけでなく、企業の経営ニーズと人材が有する経験・スキルのマッチング策としても一役買ってくれそうです。大企業と比較すればどうしても待遇差が問題視されがちな中小・零細企業においては、昨今、人材の確保・定着がますます困難となっています。今号でご紹介したウェルカムバック制度は大手企業の事例ではありますが、「一度は退職した人材が再び戻ってきやすい体制を整えておく」という視点は、人材流出が課題となる中小・零細企業でも同様に、重要となるのではないでしょうか。