2022年6月改定!「公益通報者保護法」の概要を分かりやすく解説

いわゆる内部告発を行った通報者保護を規定した公益通報者保護法ですが、2006年4月1日の同法施行後も「公益通報が十分に機能しない」「通報者保護が徹底されない」等の事案が多く発覚しています。これを踏まえ、2022年6月1日に改正法が施行され、従業員数301人以上の企業に対し「内部通報に適切に対応するために必要な体制整備」が義務付けられました。従業員数301人に満たない企業でも、現状努力義務となっていますので、公益通報者保護法改正の趣旨や内容を正しく理解しておく必要があります。

公益通報者保護法とは?分かりやすく解説

例えば、下請事業者に対する不当な取り扱い、不正会計、取引先からのリベートの受領やデータ偽装等、企業の不祥事は後を絶たず、これまでに多くのトラブルが報じられてきました。こうした実情に鑑み、企業においては不正リスクの早期発見・是正、法令違反の発生・被害の防止を図る目的で、内情をよく知る従業員から情報提供を受けるための内部通報制度(公益通報制度)の導入が広がりました

冒頭でも少し触れましたが、公益通報者保護法は内部通報者の保護に関わるルールを定めたものであり、内部通報制度(公益通報制度)を適切に機能させる上では欠かすことのできない法律です。しかしながら、これまでの公益通報者保護法では、内部通報制度等を設けることについて法律上の義務としていなかったこと等から、現場で内部通報が十分に機能しているとは言い難い状況でした。これを受け、内部通報制度の強化と通報者の保護を図るべく、2022年6月1日より改正法が施行されています。

2022年6月施行 改正公益通報者保護法のポイント

2022年6月より施行された改正公益通報者保護法のポイントは、多岐に渡ります。ここでは、改正項目の主な内容について確認しましょう。

出典:消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)概要

事業者の体制整備の義務化(従業員301人以上の事業者が対象)

✓ 事業者内の「通報窓口の設置」
従業員数301人以上の事業者に対し、「公益通報対応体制の整備」と「公益通報対応業務従事者の指定」が義務付けられ、適切な通報窓口を設置することとされました。

  • 内部公益通報受付窓口を設置し、当該窓口に寄せられる内部公益通報を受け、調査をし、是正に必要な措置をとる部署及び責任者を明確に定める
  • 内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に係る公益通報対応業務に関して、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとる
  • 内部公益通報受付窓口において内部公益通報を受け付け、正当な理由がある場合を除いて、必要な調査を実施する。当該調査の結果、通報対象事実に係る法令違反行為が明らかになった場合には、速やかに是正に必要な措置をとる。是正に必要な措置をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認し、適切に機能していない場合には、改めて是正に必要な措置をとる
  • 内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関し行われる公益通報対応業務について、事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置をとる
  • 公益通報者保護法及び内部公益通報対応体制について、労働者等及び役員並びに退職者に対して教育・周知を行う
  • 政府指針において求められる事項について、内部規程において定め、当該規程の定めに従って運用する

✓通報者の「不利益な取扱いの禁止」

  • 通報を理由とした解雇の無効、降格・減給などの不利益取り扱いの禁止等に加えて、損害賠償請求も禁止
  • 事業者の労働者及び役員等が不利益な取扱いを行うことを防ぐための措置をとるとともに、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる
  • 事業者の労働者及び役員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。事業者の労働者及び役員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要
    性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる

事業者の内部通報担当者に守秘義務と罰則規定

  • 事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならない
  • 従事者には「通報者氏名などの情報について漏らしてはならない」という守秘義務が法律上定められ、違反した場合には30万円以下の罰金が科される

「公益通報者」として保護される範囲の拡大(退職者、役員の追加)

通報者は「労働者・退職者・役員」であることが求められます。それぞれの具体的な範囲は、以下の通りです。

  • 「労働者」には、正社員や公務員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマーのほか、取引先の社員・アルバイトなども含まれる
  • 2022年6月1日以降は「退職者」として、通報の日前1年以内に雇用元(勤務先)で働いていた者、派遣労働者については通報の日前1年以内に派遣労働者として派遣先で働いていた者も含まれる
  • 「役員」には、法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人のほか、法令の規定に基づき法人の経営に従事している者(会計監査人を除く)が含まれる

保護される「通報対象事実」の範囲の拡大

改正により、保護される通報の範囲が拡大されています。保護される通報の範囲として、従来は公益通報者保護法で定める法律に違反する犯罪行為(刑事罰の対象となる行為)とされていましたが、改正法では公益通報者保護法で定める法律に違反する過料の対象となる行為(行政罰の対象となる行為)が追加されました。

この他、改正公益通報者保護法の詳細や実務上の対応等は、以下よりご確認いただけます。

参考:消費者庁「公益通報ハンドブック(改正法準拠版)

リスク管理として、内部通報制度や公益通報者保護法への前向きな対応を

内部通報制度や公益通報者保護法の実務に関しては「大企業が取り組むもの」と思われがちですが、企業のリスク管理の一環として、従業員数300人以下の現場においても必ず目を向けるべき課題です。「会社としてやらなければならないこと」と捉えると負担に感じられてしまうでしょうが、内部通報制度を整えることは、企業と労働者の両方を守ることにつながります。
内部通報制度や公益通報者保護法を正しく理解し、今一度、御社に必要な体制整備について考えてみましょう。

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