長時間労働が疑われる事業場に対する、2023年度の監督指導結果が公表されました。前年度の監督指導結果との比較では、監督指導実施事業場自体は約7,000減少している一方、前年同様、８割超の事業場で労働基準関係法令違反が発覚し、違反事例の中でも特に多い「違法な時間外・休日労働」の実態が浮き彫りとなりました。また、特筆すべきは、「過重労働による健康障害防止措置が不十分なための改善指導」の割合が前年比で10％ほど高くなっていることです。この機会に、「過重労働による健康障害防止措置」の適切な取り組みを確認しましょう。

監督指導対象事業場の81.2％で労働基準関係法令違反あり

労働基準監督署による監督指導は、各種情報から時間外・休日労働時間数が１ヶ月当たり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場等を対象に実施されているものです。2023年度の監督指導で発覚した労働基準関係法令違反の内訳を見てみましょう。

違反項目のおよそ５割を占める「違法な時間外・休日労働」

2023年度監督指導結果では、対象となった26,117事業場のうち21,201の事業場、割合にして81.2％で、何かしらの労働基準関係法令違反が確認されました。各違反内容の内訳は、「違法な時間外・休日労働」で44.5％、「賃金不払残業」で７.0％、「健康障害防止措置の未実施」で22.4％でした。このうち、「違法な時間外・休日労働」については割合として前年比増、他の２項目では微減となっています。
是正対象となった時間外・休日労働の状況は、以下の通りです。200時間超、150時間超といった特に深刻な長時間労働件数では減少している一方、１ヶ月あたり「80時間超」「100時間超」に関しては増加傾向にあります。

「健康障害防止」関連での改善指導割合が大幅増

時間外・休日労働の監督指導実態についてはご覧いただいた通りですが、今回の結果報告で特に注視すべきは、「過重労働による健康障害防止措置が不十分なための改善指導」の割合です。

2023年度は、監督指導を実施した26,117事業場のうち12,944事業場、監督指導実施事業場全体のおよそ半数を占める事業場に対して、長時間労働を行った労働者に対する過重労働による健康障害防止措置を講じるよう指導が行われました。
「過重労働による健康障害防止措置」と聞いて、どんな取り組みが適切であるかをイメージできるでしょうか？もしかしたら、「ウチは残業が少ないから関係ない」とお考えのケースもあるかもしれません。しかしながら、2020年４月よりすべての企業で適用となった36協定届の新様式では、「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康福祉確保措置」の記載が求められていることから、すべての企業で例外なく検討すべき施策と考えるべきです。

「過重労働による健康障害防止措置」に関わる４つの観点

ひと口に「過重労働による健康障害防止措置」といっても、その取り組みとしていくつかの選択肢があります。このあたりは政府公開のリーフレットにて詳しく解説されていますので、今一度ご確認いただけると良いと思います。ここでは、措置の項目のみピックアップしてご紹介しましょう。

○　時間外・休日労働時間の削減
○　年次有給休暇の取得促進
○　労働時間等の設定の改善
○　労働者の健康管理に係る措置の徹底
・健康管理体制の整備、健康診断の実施等
・長時間にわたる時間外・休日労働を行った労働者に対する面接指導等
・過重労働による業務上の疾病を発生させた場合の措置

「時間外・休日労働時間の削減」に目を向けることが大前提ですが、これと併せて、過重労働が生じた際に適切な対応ができるような体制作りが求められます。

健康障害防止措置の内容は、「労働者の声」を踏まえた検討を

長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に際しては、必ず労働者側の意見に耳を傾けることが求められます。具体的には、以下のステップを経る必要があります。
✓　常時50人以上の労働者を使用する事業場の場合には、衛生委員会で調査審議を行うこと
✓　常時50人未満の労働者を使用する事業場の場合には、労働安全衛生規則第23条の２に基づく
関係労働者の意見を聴くための機会等を利用して、関係労働者の意見を聴取すること
労使間の十分な協議を通じて、現場に活きる措置の検討が望まれます。

参考：
厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する令和５年度の監督指導結果を公表します」

厚生労働省「過重労働による健康障害を防ぐために」