2024年10月1日以降、各都道府県で順次適用となる改定地域別最低賃金への対応は万全でしょうか?2024年度は過去最大の引き上げ幅を更新するとあって、多くの現場において対応必須となります。今号では、最低賃金引き上げへの企業対応時に起こりがちな「よくある間違い」を解説しましょう。
目次
最低賃金対応よくある間違い① 月給について見直しを行っていない
地域別最低賃金は時給で示されることから、「最低賃金の引き上げに伴い、アルバイトの時給は毎年見直されているが、正社員の月給は長年据え置き」となっているケースは珍しくないようです。しかしながら、最低賃金は月給、日給、時給等の別に関わらず、すべての賃金形態に適用されます。月給については、時給に換算して最低賃金をクリアしているかどうかを確認しなければなりません。
月給の時給換算=月給÷1ヶ月平均所定労働時間数
月給は、1ヶ月平均所定労働時間数で割ることで、時給換算できます。ただし、1ヶ月平均所定労働時間は企業ごと、労働者ごとに異なりますので注意が必要です。年間の総所定労働時間を算出して12ヶ月で割ることで、1ヶ月平均所定労働時間を特定することができます。具体的には「(365日-年間休日数)×1日の所定労働時間÷12ヶ月」の計算で、1ヶ月平均所定労働時間を算出できます。
月給とは「月の総支給額」ではありません
地域別最低賃金との比較のために用いる月給は、月の総支給額ではありません。最低賃金の対象となる賃金とは、以下の賃金・手当を除いて、毎月支払われる基本的な賃金のことです。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
- 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
- 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
- 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
なお、「精皆勤手当」や「家族手当」といった名称でなくても、支給の要件等から実態としてこれに当てはまる手当については、月給から除外した上で時給換算する必要があります。なお、厚生労働省ホームページでは、基本給の金額、就業場所、労働時間などの条件を入力することで、最低賃金との比較を簡単に行うことができるサイトを公開しています。
参考:厚生労働省「必ずチェック!最低賃金」
最低賃金対応よくある間違い② 最低賃金への対応は、次の契約更新時で良い
例えば2024年4月から1年間の雇用契約を締結した場合、「向こう1年間の時給についてはすでに契約時に約束したのだから変更する必要はない」として、10月より適用となる改正最低賃金対応は2025年4月からで良いと考えられているケースもあるようです。しかしながら、最低賃金は発効日から遵守しなければなりませんので、たとえ契約期間中であっても時給改定は必須となります。2024年度改定地域別最低賃金の発効日を確認しておきましょう。
参考:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
最低賃金対応よくある間違い③ 地域別最低賃金さえ確認していれば良い
「最低賃金」というと、多くの場合「地域別最低賃金」のことを指しますが、特定の産業ごとに設定される「特定(産業別)最低賃金」というのもあります。これは、特定産業の労使間で地域別最低賃金よりも高水準の最低賃金を定めることが必要と認めた場合に設定されます。この「特定(産業別)最低賃金」が設定されている産業に従事する労働者に対しては、特定(産業別)最低賃金を適用しなければなりません。ただし、現在では都市部を中心に、特定(産業別)最低賃金が地域別最低賃金を下回るケースも少なくありません。
参考:厚生労働省「特定最低賃金の全国一覧」
賃金が変更となっても、雇用契約書の締結し直しまでは不要
地域別最低賃金の引き上げに伴って賃金を改定した場合の企業対応として、しばしばご相談いただくのが「契約書の締結し直し」に関わることです。確かに、賃金額の変更は雇用契約内容の変更に該当しますから、雇用契約書も新たに作成し直さなければならないように感じられます。
この点、雇用契約書に関しては、有期契約・無期契約に関わらず、最低賃金の変更前に交わしているものを改めて締結しなおす必要はありません。ただし、労働者に対して賃金変更の内容を通知する必要がありますから、実務上、通知書や給与辞令等を交付して対応することになります。