安易な「事業場外みなし」導入はNG!要件を正しく理解し、違法にならない運用を

御社の就業規則には、「事業場外みなし労働時間制」の規定は盛り込まれているでしょうか?「事業場外みなし」とは、外回り等で労働時間の管理が難しい労働者に対し、使用者はその労働時間に係る算定義務が免除され、一定時間労働したものとみなすことができる労働時間制度のこと。企業においては「何となく便利だから・・・」と導入されることの多い制度ですが、適用不可のケースに適用してしまう誤運用に注意が必要です。

製薬会社MRに事業場外みなし労働時間制の適用を認めない判決

事業場外みなし労働時間制の適用可否については、2022年11月22日の東京高裁判決をベースにお話ししましょう。本件は、外資系製薬会社で外勤の医療情報担当者(MR)として働いていた労働者が残業代などの支払いを求めていたもので、東京高裁は事業場外みなし労働時間制の適用を認めないとする判決を下しました。高裁判決の決め手となったのは、「勤怠システムの導入により、始業・終業時刻の把握が可能となったこと」。一審では「業務について労働者の裁量による部分が大きいこと」、さらに「上司の指示・決定を受けていなかったこと」が考慮されて事業場外みなしの適用を認める判決が出ましたが、二審では「労働時間を算定し難いときに当たるとはいえない」とされ、一転して適用を認めないとしました。

参考:労働新聞社「事業場外みなし 製薬会社MRに適用認めず 始業と終業の把握可 東京高裁

その「事業場外みなし」の適用は、意図せず法違反になっていませんか?

前項に挙げた高裁判決を踏まえ、事業場外みなし労働時間制を導入している企業は今一度、運用の実態を見直しましょう。事業場外みなしは、単に、事業場外で業務に従事する労働者に対して適用できるものではありません。要件である「労働時間を算定し難いとき」を満たせないのであれば、使用者には原則的な方法での労働時間把握・管理義務が課せられます。

「労働時間を算定し難いとき」とは?

「労働時間を算定し難いとき」について、厚生労働省のガイドラインには「事業場外で業務に従事し、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間の算定が困難な業務」とあります

ただし、以下の場合には労働時間の算定が可能であると判断される旨の明記があります。

  1. 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
  2. 無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合
  3. 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後、事業場に戻る場合

昨今の情報通信技術の進化・普及に鑑みると、たとえ事業場外で仕事をしていたとしても、労働者自身が労働時間を管理することや、使用者の指揮命令を受けることについては何ら問題なく対応できる環境が整っているものと考えられます。外に出ている労働者とは携帯電話で容易に連絡がとれますし、モバイル端末によるインターネット利用、クラウドによる勤怠管理も今では当たり前です。判例ではこのあたりのIT事情が考慮され、事業場外みなし適用の正当性が検討される上では「労働時間の算定が困難である」との要件についての判断が非常に厳しいものとなっています

テレワーク時の「事業場外みなし」の適用要件

コロナ禍で普及したテレワークにも、事業場外みなし労働時間制の適用が検討されるケースは少なくありません。この場合にも、原則として「事業場外で業務に従事し、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間の算定が困難な業務」であることが要件となりますが、テレワークでは情報通信機器(携帯電話、メール等)を常時通信可能としているケースが一般的であるため、適用困難と言わざるを得ません

ただし、過去の判例(阪急トラベルサポート事件最高裁判決{最高裁平成26年1月24日判決})を見る限り、「携帯電話で常時接続できる状況」にあるだけで直ちに事業場外みなしの適用が否定されているわけではないことに留意する必要があります。「業務に係る事前の具体的な指示」「事後の報告書提出」等のその他の要件が総合的に加味されて、最終的に「適用を認めない」とされています。

なお、在宅勤務時の事業場外みなし適用要件については、厚生労働省のガイドラインに以下の通り挙げられています。

  1. 当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。
  2. 当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
  3. 当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。

これらに関しては、公私の区切りを明確につけにくい「自宅」という特殊な環境での就業特有の要件と考えることができます。自宅に家族がいれば、時には仕事を中断して家族の世話をすることもあるでしょう。そのために、使用者の具体的な指示に基づく労働時間管理が困難となるケースは多く想定されます。よって、使用者が、労働者個々の事情(例えば育児・介護等)に配慮して柔軟な形での自宅勤務を認める場合には、事業場外みなし労働時間制の適用の余地があり得るということになります。この場合、適切な労働時間制の適用を受けられる様、在宅勤務規程を整備しておく必要がありそうです。

参考:厚生労働省『「事業場外労働に関するみなし労働時間制」の適切な運用のために

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