「1日9時間」の勤務シフトは違法?コンビニオーナーが知っておくべき「変形労働時間制」

昨今の働き手不足の影響を受け、24時間営業のコンビニ等では「実働8時間超となる勤務シフト」の設定が散見されます。弊事務所にも、労働者の皆さんから「1日9時間シフトは違法ではないか?」とのお問い合わせをいただくことが増えているなという印象です。結論から申しますと、「実働9時間」の勤務シフトは変形労働時間制の導入を条件に、問題なく設定可能となる場合があります。しかしながら、変形労働時間制の適用には必要な手続きがある点に、注意しなければなりません。

「1日9時間シフト」は認められるの?

まず大前提として、変形労働時間制を導入していない事業場において、実働9時間の勤務シフトを設定することはできません。労基法上、1日8時間、1週間40時間の法定労働時間を超えて労働をさせてはいけないことになっているからです。

実働9時間を「8時間勤務+1時間の時間外勤務」とするには?

一方で、使用者側で所定の手続きが講じられていれば、「8時間勤務+1時間の時間外勤務」として実質9時間労働をさせることは可能です。具体的には「労使間で36協定が締結・届出されている」「就業規則又は労働協約において、時間外労働に関する規定がある」ことを前提に、業務命令として1時間の時間外労働を命じ、8時間を越える労働時間に対して割増賃金を支給するという手順を経る必要があります。

「1日9時間勤務」を前提とするシフトは避けるべし

ただし、前述の場合でも、シフト上は「1日8時間」以内に設定し、時間外の1時間については原則的なシフトとは分けることをお勧めします。たとえ労働者の合意があったとしても、1日の勤務シフトが法定労働時間超に設定されることが、客観的に見て「使用者側のコンプライアンス意識の欠如」と捉えられてしまうことがあるからです。意図せず労使トラブルに発展することも無きにしもあらずですから、法定労働時間を意識したシフト設定が大前提となります。

コンビニオーナーが注目すべき、「1週間単位の非定型的変形労働時間制」

労働時間を考える上ではどうしても法定労働時間の枠組みを意識する必要がありますが、変形労働時間制を導入することで「1日8時間」を超える労働時間の設定ができるようになります。ひと口に「変形労働時間制」といってもいくつか種類がありますが、ここでは少人数で営業するコンビニ経営に適した「1週間単位の非定型的変形労働時間制」を解説しましょう。

従業員数30人未満の小売業等で導入可能な「1週間単位の非定型的変形労働時間制」

「1週間単位の非定型的変形労働時間制」とは、常時使用する従業員数30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業において、労使協定により、1週間単位で毎日の労働時間を弾力的に定めることができる制度です。具体的には、週40時間の範囲であれば、「10時間」を上限として1日の所定労働時間を定めることができます。あらかじめ所定労働時間を1日8時間超に設定された日については、1日8時間を超える労働時間が発生しても、その日の所定労働時間の範囲内であれば割増賃金を支払う必要はありません。
この労働時間制の適用要件となる「常時使用する従業員数」としては、正社員、パート・アルバイトを含むすべての従業員数をカウントします。複数の店舗を経営している場合でも、店舗ごとに人数をカウントできるので、比較的多くのコンビニで適用の余地があるのではないでしょうか。1週間のうちに忙しい日とそうでない日がある、人手不足により特定の曜日で従業員の確保が難しい等、実情に合わせて活用できます。

「1週間単位の非定型的変形労働時間制」の導入手順

「1週間単位の非定型的変形労働時間制」導入では、「従業員への周知徹底」「労使協定の締結・届出」「就業規則への規定」の手順を経る必要があります

① 従業員への周知徹底
変形労働時間制の導入は、従業員にとっての不利益変更となり得ます。というのも、日によって「労働が長時間化する」「これまで支払われていた割増賃金が支払われなくなる」といった状況が生じるからです。そのため、使用者側は従業員に対し、変形労働時間制導入の必要性について丁寧に説明し、理解してもらえるよう努める必要があります。

② 労使協定の締結・届出
1週間単位の非定型的変形労働時間制のルールを定め、労使協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出ます。
「対象労働者の範囲」「週所定労働時間数」「週の起算日」「協定の有効期間」等について検討し、様式第5号に従い労使協定を作成します。

参考:厚生労働省「1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する協定届

③ 就業規則への規定
労使協定の締結・届出と併せて、就業規則への規定・届出も必要です。1週間単位の非定型的変形労働時間制の適用がある旨と、「対象労働者の範囲」や「週の起算日」、「勤務シフトをいつまでに通知するか」等の必要事項を明記します。従業員数10人未満の店舗では就業規則の作成・届出の義務はありませんが、就業規則に準ずるものとして書面等で従業員に通知しておくと安心です。

LINEで送る

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事