一都三県で再度の緊急事態宣言が発出!諸外国の「テレワーク法」に学ぶ在宅勤務導入の視点

2021年を迎えても新型コロナウイルス感染症は拡大の一途をたどり、東京都及び隣県では2度目の緊急事態宣言発出となる見込みです。対象地域を中心に、企業においてはいよいよ本格的にテレワーク制度の確立・定着が目指されますが、対応は万全でしょうか?

ハンガリーやアルゼンチンで試行される「テレワーク法」とは

日本においては、まだまだ主流とはいえないテレワークという働き方。「海外においてはリモートワークがスタンダード」と言われることがありますが、実態は国によって様々であり、一概に「世界的にみて日本だけが遅れをとっている」と決めつけるのは得策ではありません。
ただし、今般のコロナ禍では、諸外国においてテレワークに関わる法制化が進んでいます。今号では、ハンガリーとアルゼンチンで施行された「テレワーク法」の概要をご紹介しましょう。

円滑なテレワーク移行を目指す、ハンガリーのテレワーク法

  • 雇用主は、従業員の健康と安全に配慮した労働条件を通知する義務があり、従業員はその条件に基づいて勤務地を選択することができる
  • 雇用主は従業員の経費について、月額最低賃金の10%を上限に証明書なしで実費精算することができる
  • 雇用主と従業員の合意があれば、自由に出社と在宅を選ぶこと、勤務日の一部をテレワークとすることもできる

出典:JETRO「テレワーク法を施行、労働者の権利・健康保護を目的に(ハンガリー)

ハンガリーのテレワーク法は2021年2月8日までの時限法ですが、世界的に感染拡大のやまぬ状況を踏まえれば延長される可能性が高いと考えられます。

労働者保護を目的に細かな取決めをする、アルゼンチンのテレワーク法

  • テレワーク勤務の従業員は出社勤務の従業員と同等の権利と義務を有し、賃金はテレワーク勤務に移り変わったことによって、出社勤務時より下回ることがあってはならない
  • 労働時間は労働契約法など現行規則に従い、書面によって事前に同意する
  • テレワーク勤務の従業員は労働時間終了後、「つながらない権利」を有する。この権利を使うことによって、就業規則への違反とはみなされることなく、制裁の対象ともならない。また、雇用主は勤務時間外にメールのやり取りなど連絡を取ってはならない。利用されるプラットフォームやソフトウエアは、勤務時間外の連絡を妨げるものとする
  • 13歳未満の子供または介護が必要な高齢者など扶養家族がいる場合、介護のための時間調整や仕事を中断することを認める
  • テレワーク勤務の選択は各従業員の任意であり、書面によって同意が必要。また、従業員が望めば、再び出社勤務に戻ることができ、雇用主はこれに従い、元の勤務先または従業員の住宅に最寄りの勤務先での業務を与える。雇用主がこれを拒否した場合、従業員は解雇状況とみなすことができ、また、法的に出社勤務復帰を要請することができる
  • テレワーク勤務に当たり、雇用主は従業員に必要な通信機器(ハードウエア、ソフトウエア)、その他必要なツールやサポートを与え、設置費やメンテナンス費も加えて、雇用主が負担する。テレワーク勤務によって通信費およびその他サービス費(電気代など)が上昇した場合、雇用主が補填(ほてん)する
  • 業務に必要な新規技術の導入のための研修などは雇用主が負担し、従業員の業務に加算されてはならない
  • テレワーク勤務の従業員は労働組合関連法に基づく権利、団結権などを有する
  • 労働災害法に基づき、テレワーク勤務で生じた事故・災害については、労災の対象となる。
  • 雇用主は会社の財や情報の保護のために管理システムを導入することができるが、従業員のプライバシーを侵害する監視ソフトなどの活用は禁じる
  • アルゼンチン国外でのテレワーク勤務を行った場合、従業員の居住地または会社が位置する場所の法律を適用できる。従業員にとって有利な方を選択できる。外国人非居住者を雇用した場合、当局への許可申請が必要で、業種によっては人数が制限される
  • 所管省庁は、労働・雇用・社会保障省であり、テレワーク勤務を実施する企業は同省に登録を行い、使用するソフトウエアまたはプラットフォームの情報、テレワーク勤務を行う従業員名簿を同省に提出する必要がある

出典:JETRO「テレワーク法公布、在宅勤務の細則明らかにし労働者権利保護、産業界からは不評(アルゼンチン)

細かなルールにまで言及するアルゼンチンのテレワーク法には、賛否両論あるようです。しかしながら、国がこのくらいしっかり方針を示している方が、企業は混乱なく制度を導入できますし、労働者も安心して在宅勤務に取り組めるのではないかと思います。日本のテレワークガイドラインと似通った部分も多いので、参考にできるところは活かしながら、御社の社内体制整備にお役立てください。

「つながらない権利」は日本においても労務管理のポイントの一つに

ところで、前述のアルゼンチンにおけるテレワーク法では「つながらない権利」というキーワードがあり、初めて耳にするという方も多いのではないでしょうか。「つながらない権利」については、日本においても長時間労働の抑制の観点からたびたび議論されているテーマのひとつですので、ぜひ覚えておきましょう。

2020年末に公開された厚生労働省の「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」の報告書にも、「つながらない権利」について以下の通り言及されています。

テレワークは働く時間や場所を有効に活用でき、育児等がしやすい利点がある反面、生活と仕事の時間の
区別が難しいという特性がある。このため、労働者が「この時間はつながらない」と希望し、企業もそのような希望を尊重しつつ、時間外・休日・深夜の業務連絡の在り方について労使で話し合い、使用者はメールを送付する時間等について一定のルールを設けることも有効である。例えば、始業と終業の時間を明示することで、連絡しない時間を作ることや、時間外の業務連絡に対する返信は次の日でよいとする等の手法をとることがありうる。労使で話し合い、使用者は過度な長時間労働にならないよう仕事と生活の調和を図りながら、仕事の場と私生活の場が混在していることを前提とした仕組みを構築することが必要である。

出典:厚生労働省「「これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書」を公表します

「つながらない権利」の在り方、これを踏まえた社内ルール作りに目を向けてみましょう。また、同報告書にはテレワーク時の労働時間管理のポイントが示されており、現場におけるテレワーク制度設計に役立つ内容となっているので、ぜひご一読下さい。

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