三位一体の労働市場改革における見直し項目「雇用保険制度」「退職金制度」

前号に引き続き、第18回新しい資本主義実現会議において示された「三位一体の労働市場改革の指針」からのお話です。今号では、指針に盛り込まれた「成長分野への労働移動の円滑化」の各項目のうち、企業がおさえるべき改正予定項目を確認してまいりましょう

なぜ、「労働移動」が必要なのか

少子高齢化の深刻化に伴う働き手不足の解消に向け、政府は目下、「異次元の少子化対策」を推し進めているところではありますが、その効果が得られるまでに相当の時間を要すことは言うまでもありません。このような状況下で、労働の「量」の確保が困難である以上、「人への投資」を通じた労働の「質」の向上、及び、限られた労働資源が成長分野に円滑に移動する労働市場の実現が目指されることになります。
政府が考える「成長分野」に関しては指針の中で明言されていませんが、「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」(骨太方針2022)によると、人、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)を重点投資分野とした上で、今後の成長分野として量子、AI、バイオ・医療、GX、DXに言及しています。

参考:内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2022

「成長分野への労働移動の円滑化」に向けた取り組みの方向性と具体的な施策

成長分野に労働力が投入される環境を整備するために、政府は、「企業における従来型の雇用の在り方」及び「労働移動の障壁となる諸制度の見直し」を進める方向性を示しています。具体的には、労働者が主体的にキャリア形成に取り組み、自らの選択により企業内での昇任・昇給や企業外への転職による処遇改善、スタートアップ等への労働移動機会の実現を目指せる社会の創造を目標に、今後、雇用保険や退職金等の既存制度に係る改革推進の流れが作られていくことになりそうです。

「成長分野への労働移動の円滑化」の基本的な考え方

諸制度改革の方向性として、以下2つのポイントをおさえておきましょう。

〇 平時・危機時にかかわらず、個々人が主体的に学び直しに取り組み、より高い賃金を得られる職務に対応できるようにする
〇 雇用保険の適用拡大などにより、多様な働き方を効果的に支える制度としていくことで、より多くの方が安心して働ける環境を整備する

大企業を中心に「長期雇用」「安定雇用」を基本とした雇用システムが当たり前とされてきた結果、国際的に見て「失業率が低位にある」という側面では評価できるものの、「失業時や教育訓練に対する公的支出の低さ」が労働移動の妨げとなっていると言わざるを得ません。今後、労働者自らの意思による転職、成長分野への円滑な労働移動を推進するために、従業員の雇用維持や教育訓練について企業頼みとなるシステムから転換し、先述の2つのポイントを主軸として、成長分野に労働力が投入される環境が整備されていく見込みです。
以下、「三位一体の労働市場改革の指針」に示された施策のうち、企業がおさえるべき項目を4点、確認しましょう。

自己都合退職に伴う失業給付受給要件の見直し

既存の失業給付制度では、自己都合で離職する場合、求職申込後2ヶ月ないし3ヶ月は失業給付を受給できない仕組みとなっており、会社都合の場合と異なる取扱いがされています。この点、自らの選択による労働移動の円滑化を図る観点から、失業給付の申請時点から遡って例えば1年以内にリ・スキリングに取り組んでいた場合等について会社都合の場合と同じ扱いとするなど、自己都合退職に伴う失業給付の受給要件を緩和する方向で具体的設計が行われます。

退職所得課税制度等の見直し

退職所得課税については、勤続20年を境に、勤続1年あたりの控除額が40万円から70万円に増額されています。こうした取り扱いが、自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘があることから、制度変更に伴う影響に留意しつつ、本税制の見直しが行われます。

退職金制度の見直し

退職金制度について、企業において「自己都合退職の場合の退職金の減額」、「勤続年数・年齢が一定基準以下の場合の退職金不支給」等といった労働慣行がありますが、自らの選択による労働移動の円滑化の観点から、見直しが必要となります。これに伴い、厚生労働省のモデル就業規則が、今後改正される予定です。

副業・兼業の奨励

成長分野への円滑な労働移動を図るための端緒として、企業における副業・兼業を奨励すべきとの方向性が示されました。今後、副業・兼業人材を受け入れる企業又は送り出す企業への支援など、労働者個人が新たなキャリアに安心して移行できるようにするための制度が創設される見込みです。

参考:内閣官房「三位一体の労働市場改革の指針

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