地域別最低賃金の大幅引き上げを目前に、賃金額の見直しを行った現場も多いと思います。賃金額の見直しに際し、注意すべきは「障がい者に対する約定賃金」です。「令和5年度使用者による障がい者虐待の状況等」によると、障がい者に対する虐待事例で最も多いのが、賃金不払い等の「経済的虐待」とのこと。最低賃金は、原則として障がいを持つ労働者にも適用される点に留意しなければなりません。
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障がい者虐待に対する労働局の対応として、最も多いのは「最低賃金関係の指導」
厚生労働省では、都道府県労働局で行われている「使用者による障がい者虐待の是正指導」等の状況を取りまとめ、その結果を「使用者による障がい者虐待の状況等」として毎年公開しています。令和5年度結果によると、障がい者が使用者から受けた虐待の種別について「経済的虐待(80.6%)」が最も多く、虐待に対して労働局がとった措置として最多の「労働基準関係法令に基づく指導等(85.7%)」のうち26.6%が「最低賃金関係」であることが分かりました。
出典:厚生労働省「令和5年度使用者による障がい者虐待の状況等の結果を公表します」
障がい者に対する経済的虐待の具体事例を確認
「令和5年度における使用者による障がい者虐待の事例」によると、障がい者に対する経済的虐待の事例として挙げられているのは、「本来の休憩時間に就労した分の賃金未払い」「時間外労働に対する賃金不払い」「最低賃金を下回る賃金設定」です。
最低賃金を下回る賃金設定には、「減額特例許可」が必要です
最低賃金に関連する、障がい者への経済的虐待事例を確認しましょう。
障がい者に対する賃金を最低賃金未満に設定するには、「精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者」に該当するとして、「最低賃金の減額の特例許可申請」を行う必要があります。このたびの最低賃金大幅引き上げへの対応として賃金見直しを行った事業所では、申請もなく、障がいを持つ労働者の賃金を、最低賃金未満の設定としていないでしょうか?
「最低賃金の減額の特例許可申請」とは?
最低賃金の減額の特例許可申請は、以下の労働者について行うことができます。
・ 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者(最賃法第7条第1項)
・ 試の使用期間中の者(最賃法第7条第2号)
・ 基礎的な技能及び知識を習得させるための職業訓練を受ける者(最賃法第7条第3号)
・ 軽易な業務に従事する者(最賃法第7条第4号)
・ 断続的労働に従事する者(最賃法第7条第4号)
上記のうち、「精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者」とは、単に障がい者であることのみを理由として認められるものではありません。障がいが業務の遂行に、直接的に著しく支障を与えていることが明白である必要があります。加えて、業務の遂行に直接支障があったとしても、その支障の程度が著しい場合でなければ、許可の対象とはなりません。さらに、特例許可を受けていても、対象労働者が許可された業務以外の業務に従事する場合には、一般の労働者と同じ最低賃金額が適用される点にも注意が必要です。
障がい者に対する最低賃金減額特例許可に際し、障がいによる業務への支障の程度を検討する際の比較対象労働者、減額率の上限等の考え方については、以下よりご確認いただけます。
参考:京都労働局「最低賃金の減額の特例許可申請について ~「精神又は身体の障がいにより著しく労働能力の低い者」(最賃法第7条第1 号)~」
障がい者雇用義務への対応と適正処遇はワンセットで
民間企業における障がい者の法定雇用率は、2024年4月より2.5%に引き上げられており、これによって新たに障がい者雇用義務に対応することとなった企業もあると思います。障がい者に対して意図せず経済的虐待を行うことのないよう、正しい賃金設定の考え方を理解し、適切な対応を徹底できるようにしましょう。