新型コロナウイルス感染拡大の抑止力として期待されるワクチン接種が、着実に進みつつあります。日本国内における「2回のワクチン接種が完了した割合」は、2021年9月28日時点で「60%弱」とのこと。本稿をお読みいただいている皆さんの中にも、すでに必要な接種をお済ませになった方が多くいらっしゃることでしょう。
ワクチン接種率が向上する中、労務管理上、留意すべきは「未接種者への取扱い」です。意図せず、未接種者に対する不利益取扱いをしないよう、事業主や人事担当者には慎重な対応が求められます。
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現場において留意したい、ワクチンを接種しない従業員への不利益取扱い
感染拡大防止の観点から、企業は、ワクチン接種を推奨する立場をとるケースがほとんどかと思います。企業がこうしたスタンスをとること自体は何ら問題にはなりませんが、一方で、ワクチンを接種しない従業員に対し、ワクチン未接種であることを理由に、不利益取扱いをしてはなりませんのでご注意ください。
解雇、雇い止めの事由としてはNG
このたび、ワクチン未接種の従業員に対する取り扱いが、厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A」に明記されています。
「新型コロナウイルスワクチンの接種を拒否した労働者を、解雇、雇止めすることはできるか」という問いに対しては、「新型コロナウイルスワクチンの接種を拒否したことのみを理由として解雇、雇止めを行うことは許されるものではない」とされており、ワクチン未接種であること以外に解雇、雇い止めの事由がない場合、不当な解雇、雇い止めと判断されます。
ワクチン未接種による業務内容の変更、配置転換は、業務命令権の濫用、人格権侵害に該当する可能性
さらに、「新型コロナウイルスワクチンを接種していない労働者を、人と接することのない業務に配置転換することはできるか」という問いについて、ワクチン未接種であることのみを理由とする場合は不利益取扱いに該当し、企業として不適切な対応であるとの回答があります。
もっとも、接種しない従業員に対する配置転換等を禁じる法令があるわけではありません。ただし、会社側は無制限に業務内容の変更や配置転換を実施できるわけではなく、必ず就業規則等の定め、業務上の必要性、合理的な理由を根拠に、労働者の不利益も十分に考慮した上で、慎重に決定しなければなりません。
中小企業においては、取引先から「営業社員を接種済みの者のみにしてほしい」と依頼されるケースも少なくないようですが、これが本当に必要な措置なのか、配置転換等以外の対応ができないかを十分に検討しましょう。万が一、優越的な関係を背景として従業員に配置転換の同意を強要等した場合、業務命令権の濫用、人格権侵害、パワーハラスメントに該当する可能性があります。
採用条件に「ワクチン接種者」は不適切です
配置転換等の考え方同様、「ワクチン接種済みであること」を採用条件とすること自体は、直ちに違法とされるわけではありません。ただしQ&Aには、こうした要件に合理性があるかどうかについて十分に判断するとともに、その理由を応募者にあらかじめ示した上で募集を行う必要があると明記されています。
もっとも、ワクチン接種の有無はプライバシー性の高い情報であることから、採用選考の過程で接種の有無を聞きだしたり、ワクチン接種証明書の提出を強制したりすることは大いに問題となるでしょう。
横行する「ワクチンハラスメント」、御社は大丈夫ですか?
ワクチン接種率向上の背景で、「ワクチンハラスメント」が問題視され始めています。ワクチン接種は、各人がメリット・デメリットを十分に考慮した上で、個人の自由な意思によって行われるものです。労務管理上、ワクチン接種を希望しない、基礎疾患等があって接種できないといった個々の事情を踏まえ、接種の強制や差別、不利益取り扱いが生じない様、適切な対応を心がけましょう。