モデル就業規則2023年7月版が公開。「退職金の支給」に関わる規定が改訂に

第18回新しい資本主義実現会議において示された「三位一体の労働市場改革の指針」を土台に、「企業における従来型の雇用の在り方」及び「労働移動の障壁となる諸制度の見直し」が着々と進められています。さっそく、政府のモデル就業規則が2023年7月版に改訂され、「退職金の支給」に関わる規定が変更となっています。そもそも退職金制度自体、法定のものではないものの、企業として動向を掴んでおかれると良いでしょう。

「退職金の支給」に際し、減額・不支給に係る規定が見直し


出典:厚生労働省「モデル就業規則 (令和5年7月)

退職金支給要件としての勤続年数、自己都合退職時の減額に関わる記述が削除

このたびの「退職金の支給」に関わる具体的な改訂内容は、「勤続年数が一定基準以下の場合の退職金不支給」及び「自己都合退職の場合の退職金の減額」に関わる記述の削除です。日本企業においては、かねてより「退職金は勤続〇年以上の場合に支給されるもの」「自己都合退職の場合は満額支給なし」といった労働慣行がありますが、こうした取扱いが見直されることになりました。

退職金支給に係る見直しは、「成長分野への労働移動の円滑化」のため

それではなぜ、今回のモデル就業規則改訂で退職金の支給に係る記述が見直されることになったのでしょうか?その答えは、政府が三位一体の労働市場改革の柱の一つに掲げる「成長分野への労働移動の円滑化」を促進するためです。退職金制度における勤続年数による不支給や自己都合退職の場合の減給は、労働者が自らの選択によってキャリアチェンジを図っていく上での障壁となり得ます。これを取り除くために、モデル就業規則に規定されていた退職金の勤続年数による制限、自己都合退職者に対する会社都合退職者と異なる取り扱いを削除し、一般企業における制度見直しを促していこうというものです。

参考:内閣官房「三位一体の労働市場改革の指針

世界各国の退職金制度はどうなっている?

政府が退職金制度に係る考え方を変更したことを受け、退職金制度は今後各現場で見直され、少しずつ形を変えていくものと思われます。とはいえ、日本において退職金制度は法定の制度ではないため、このたび示された政府方針に関わらず、支給の有無はもちろん、支給要件や減額に関わる定め等、比較的柔軟に検討可能です。今号で解説した方向性やその趣旨を踏まえ、御社の制度設計にお役立ていただけると良いと思います。
ここからは少し視点を変えて、政府資料より、各国の退職金制度の在り方をご紹介することにしましょう。

〇 イギリス:
退職金の支給に関しては、法律上の義務はなく、支給額は職種、被雇用者の勤務成績、勤続年数などに左右される。

〇 ドイツ:
退職金の支給に関しては、法律上の義務はなく、被雇用者の自己都合による退職の場合は通常支給されない。

〇 フランス:
一定の年齢を超えた段階で仕事を辞めると、金銭が支払われることになっており、希望退職か、雇用主による労働者の解雇かにより、計算額が変わる。
⇒ 労働者による希望退職
同一の雇用主のもとで連続して10年間勤務すれば退職金の受給権利を取得する。勤続年数による退職金の金額は勤続10年以上15年未満で給与1/2ヵ月、15年以上20年未満で1ヵ月、20年以上30年未満で1.5ヵ月、30年以上で2ヵ月。
⇒ 雇用主による労働者の解雇
最低でも法定解雇補償手当(※)を支払う。雇用主は、退職金とは別に労働者の年齢に係らず、拠出金として退職金の50%を老齢保険金庫(CNAVTS)に支払う義務がある。
※10年まで(毎月の給与)×(勤務年数)×(5分の1)、10年を超える年数に対しては10年までの場合で算出した金額に加え、(毎月の給与)×(10年を超える勤続年数)×(15分の2)

〇 オランダ:
法規もなく、また慣習上も解雇紛争の解決の手段として以外には支給されていない。ただし、労働協約によっては定年(65歳)以前の早期退職勧奨金制度(退職金の支払い)を設けている。終身雇用契約を交わしている労働者との雇用契約を裁判所を通じて解除する場合、裁判所は一定の退職金の支払いを企業に命じる。

〇 デンマーク:
解雇に際し、勤続12年以上は1ヵ月分、15年以上は2ヵ月分、18年以上は3ヵ月分の給与を一時金として払わなければいけない。妥当な理由がなく解雇する場合、被用者が解雇時に30歳以上で、勤続年数が1年以上の場合は最高3ヵ月分、10年以上の場合は最高4ヵ月分、15年を超える場合は最高6ヵ月分の給与を一時金として払わなくてはならない。また、休暇法に基づき有給休暇の買い上げをしなければならない。

出典:厚生労働省「退職に伴って支払われる金銭について

これらの情報は10年程前の各国の状況となりますが、勤続年数や退職理由による金額の差異を設けるケースが目立ち、日本の退職金制度に似た制度内容を主流とする国が多い印象です。このたび政府が打ち出した三位一体の労働市場改革を踏まえ、日本における退職金制度がどのように変化していくのか、今後の動向に注目が集まります。

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