
給与計算をしていると、「こういう場合はどう処理するのだろう?」と疑問に思うことが多々出てくるものです。誤った給与計算処理は、未払賃金発生や労使トラブルにつながる可能性があることから、細かなことでも都度ルールを確認して正しく対応する必要があります。今号では、割増賃金の算定基礎から除外できる手当の例外について、「通勤手当」を例に、割増賃金の基礎から除外できる場合と出来ない場合を確認しましょう。
目次
割増賃金から除外できる手当とは?
労働基準法施行規則21条では、割増賃金の時間単価を計算する際の基礎賃金から除外できる手当が限定列挙されています。労働基準法施行規則21条に掲げられる、割増賃金の算定基礎に算入しない賃金は以下の通りです。
・ 家族手当
・ 通勤手当
・ 別居手当
・ 子女教育手当
・ 住宅手当
・ 臨時に支払われた賃金
・ 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
上記の手当は、原則として割増賃金の算定基礎からは除外できます。しかしながら、ここに列挙されている手当の名称と一致しても、実態によっては除外されないケースがあることをご存知でしょうか?
各種手当が割増賃金の算定から除外可能かどうかは、「実態」によって異なる
前述の各種手当についても、単にその名称で支払っていれば例外なく割増賃金の算定時に除くことができるというわけではありません。除外可能とされるためには、労働と直接的な関係が薄く、あくまで個人的事情に基づいて支払われる手当である必要があります。
「通勤手当」については、通達で以下の通り言及されています。
✓ 除外賃金となる通勤手当は、通勤距離に応ずる費用を基礎とするものをいい、名称に捉われず実態による
✓ 通勤手当のうち一定額が最低額として距離に関わらず支給される場合は、その一定額も割増賃金の算定基礎となる賃金に算入しなければならない
よって、「通勤手当」の名称であっても、通勤距離や費用に関わらず一律に支払われるような性質の手当に関しては、割増賃金の算定基礎から除外できません。公共交通機関を使用しないマイカー通勤者に対する通勤手当に関しても同様の考え方が適用され、通勤距離に応じて支給額を設定する方法(2km以上10km未満○○○円、10km以上15km未満○○○円・・・等)であれば「一律支給」とはみなされませんので除外可能です。
参考:厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金とは?」
通勤手当を割増賃金の基礎となる賃金に含めなかったとして、残業代一部不払いにより送検された事例
過去には、一律額を支給する「通勤手当」を割増賃金の算定基礎に含めなかったとして、愛知県のタクシー業者が労働基準法第37条違反の疑いで書類送検される事案が発生しています。本件では、「通勤手当」の名目で支給していた金額に通勤距離や費用と相関性がなかったこと、加えてその支給金額が、実際に通勤に要する費用とかけ離れていたことから、割増賃金の基礎となる賃金に算入すべきと判断されました。
通勤手当に関しては実務上、「割増賃金の算定基礎から除外しても良い」との認識が一般的になっていますが、その性質や内容を十分に考慮した上で処理する必要があります。
些細な「?」を放置せず、都度正しく理解することが給与計算の大原則
今号で解説した「割増賃金の基礎となる賃金に含めるべき手当の判断」は、一見すると些細な点と思われがちです。しかしながら、こうした細かな点に係る知識不足、不適切な取扱いが未払賃金発生の温床となるため、正しい理解をもって対応できるようにしておく必要があります。毎月のことながらミスの許されない給与計算事務は、社会保険労務士への代行ご依頼が便利です。「ついうっかり・・・」の積み重ねで未払い賃金を膨らませてしまう前に、給与計算実務上のご不安は社会保険労務士にご相談ください!