
2022年4月以降、企業規模を問わずすべての企業に対し、パワーハラスメントに係る雇用管理上の措置が義務化されています。ひと口に「パワーハラスメント」といっても様々な形があり、企業対応を考える上では、まず「どのような行為がハラスメントに該当するのか」を正しく捉えておく必要があります。今号では、今後、政府のパワハラ防止指針に追加規定される「自爆営業」「カミングアウト」について解説しましょう。
目次
パワハラ3要件を満たす「自爆営業」が、企業における防止措置の対象になります
「自爆営業」とは、従業員に対する会社側からの一方的な自社商品・サービス購入の強要を指します。主に売上のノルマの達成を求められることの多い営業職、保険業界やアパレル業界等を中心に、従業員による自腹での購入・契約はかねてより後を絶たず、問題視されていました。
「自爆営業」に係る、パワハラ防止指針上の規定案
「自爆営業」に関しては、すでに労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)に基づく指針上に「パワハラ」に該当するものとして明記されることが予定されています。このたび、第87回労働政策審議会雇用環境・均等分科会において、規定案が示されました。

パワハラ該当を判断するための「3要件」とは?
前項の規定例では、自爆営業を「商品の買い取り強要等(事業主が労働者に対し、当該労働者の自由な意思に反して自社の商品・サービスを購入させる行為)に関連する言動」と定義した上で、「(1)の①から③までの要素を全て満たす場合」に職場におけるパワハラに該当するものと明記しています。
ここで今一度、指針に記載されているパワハラ3要件を確認しておきましょう。
職場において行われる
① 優越的な関係を背景とした言動であって、
⇒当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
⇒社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないもの
③ 労働者の就業環境が害されるもの
⇒当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること
これら①から③までの要素を全て満たすものが、パワハラと判断されます。①から③の詳細は、指針よりご確認いただけます。
参考:厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
関連記事:『「自爆営業」がパワハラ防止措置上の規制対象に!現場における「当たり前」の見直しを』
「カミングアウト」の強要又は禁止はパワハラに該当し得る旨が明記されます
既存のパワハラ防止指針には、性自認に関するパワーハラスメントとして、侮辱的な言動、本人の同意なしに性的指向や性自認に関する情報を暴露する「アウティング」、性的指向・性自認に言及した差別的な呼称の使用等が挙げられています。これらに加えて、今後、「カミングアウト」関連の規定が明記される方針が示されました。
「カミングアウト」とは?
「カミングアウト」とは、本人による、性的指向や性自認の開示を意味します。本人の許可なく第三者に性自認や性的指向を伝える「アウティング」とは対極にある行為です。「カミングアウト」は、本人の自由な意思に基づいて行われるべきものです。カミングアウトをするのかしないのか、誰に、いつ伝えるのかは、本来誰に強制されることはありません。
「カミングアウト」に係る、パワハラ防止指針上の規定案
このたび示されたパワハラ防止指針の改正案には、「カミングアウト」について以下の通り盛り込まれました。
本人の意思に反するカミングアウトの強要または禁止は、カミングアウトの趣旨に反するものであり、パワハラに該当します。

性的指向・性自認に関連するハラスメント、いわゆる「SOGIハラ」については、以下の記事で解説していますので、併せてご確認ください。
関連記事:『「SOGIハラ」を知る!ハラスメント防止措置の一環としてLGBTへの配慮を』
パワハラの蔓延は企業にとって悪影響。放置せず、適切な対応を
職場のパワーハラスメントは、いずれの現場も潜在的に抱える問題かもしれません。「個人間のトラブルだから・・・」と、しばしば会社が積極的な介入を避けるケースも見受けられますが、これを放置することで企業には様々な悪影響が生じるでしょう。パワハラは働く人の心の健康を蝕む他、職場の雰囲気や生産性の悪化、人材の流出、不法行為責任や安全配慮義務違反等の法的責任の追及、訴訟による金銭的負担の発生、企業イメージの低下等の原因となるため、組織として適切な対応が求められます。あらゆる形態のパワハラ対応は、労務管理の専門家である社会保険労務士と共に検討するのが得策です。
本文中の図の出典:厚生労働省「第87回労働政策審議会雇用環境・均等分科会_資料5 パワーハラスメント防止指針の改正について」

