雇用関係助成金の支給申請にあたり、企業は細かな支給要件に対応する必要がありますが、対象事業主要件のひとつに「従業員の離職」に関わるものがあります。今号では、助成金申請上、どのような離職が、いつのタイミングで起こってはならないのかを解説することにしましょう。
目次
原則、雇用関係助成金の不支給要件となる「会社都合退職」
人材の雇い入れや教育等で受給できる雇用関係助成金では、支給申請時に「従業員の離職状況」を確認されます。例えば、多くの企業で活用されるキャリアアップ助成金正社員化コースの対象事業主要件には下記の記載があります。
当該転換日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、当該転換を行った
適用事業所において、雇用保険被保険者を解雇(天災その他やむを得ない理由のために事業の継続が困難となったこと又は労働者の責めに帰すべき理由によるものを除く)等事業主の都合により離職させた事業主以外の者であること。
当該転換日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、当該転換を行った
適用事業所において、雇用保険法第23条第1項に規定する特定受給資格者となる離職理由のうち離職区分1A又は3Aに区分される離職理由により離職した者として同法第13条に規定する受給資格の決定が行われたものの数を、当該事業所における当該転換を行った日における雇用保険被保険者数で除した割合が6%を超えている(特定受給資格者として当該受給資格の決定が行われたものの数が3人以下である場合を除く。)事業主以外の者であること。
出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金支給要領(令和5年11月29日付け)」
大半の雇用関係助成金の支給要件にはこのような「離職」に関わるものがあり、助成金申請を検討中の事業主様であれば敏感にならざるを得ません。しかしながら、ひと口に「会社(事業主)都合退職」といっても、様々なケースが想定されるため、注意が必要です。ここでは、代表的な例を挙げておきます。
✓ 会社の経営不振、倒産等での一方的な労働契約の解除
✓ 事業所単位で1ヶ月に30人以上の離職予定、もしくは会社の3分の1を超える人の離職
✓ リストラ等による解雇
会社から解雇を言い渡す場合、原則として会社都合退職と判断されます。ただし、懲戒解雇等の重責解雇に該当するものは自己都合退職扱いとなり、雇用関係助成金の不支給要件には該当しません。
特定受給資格者となる離職理由「離職区分1A又は3A」とは?
前述の会社(事業主)都合退職の発生は雇用安定の趣旨から外れることが明らかなため、雇用関係助成金の支給に影響するであろうことは比較的容易に想像できます。ところが、助成金の不支給要件に該当する離職は上記にとどまりません。雇用保険上の「特定受給資格者」となる離職理由のうち、「離職区分1A又は3A」に該当する離職者が「事業所の雇用保険被保険者の6%を超え、かつ4人以上発生する場合」も助成金を受けることができなくなります。
「離職区分1A又は3A」とは、具体的にはそれぞれ以下の場合を指します。
- 離職区分1A:
解雇等
ただし、離職区分「1B(天災その他やむを得ない理由により、事業の継続が不可能になったことによる解雇)」及び「5E(被保険者の責めに帰すべき重大な理由による解雇)」に該当するものを除く - 離職区分3A
事業主からの働きかけによる正当な理由のある自己都合退職
早期希望退職者の募集による退職、退職勧奨等
「3A」に該当する場合、労働者から退職届が提出され、会社側が「自己都合退職」として認識していても、その退職理由が会社(事業主)の責めに帰すべき内容であることから、雇用保険上「会社都合退職」として処理されます。
「解雇発生」と「助成金支給申請」の時期に留意しましょう
前項までに挙げた会社(事業主)都合の離職者を出した事業所であっても、そのような実績があると永久に助成金を受け取れなくなってしまうという訳ではありません。支給申請のタイミングによっては、助成金を受け取ることも可能です。例えば、キャリアアップ助成金正社員化コースの場合、助成金支給申請に影響を与える解雇等は、「当該転換日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間」に生じたものに限定されています。このあたりは助成金によって異なりますので、申請を予定する助成金の要項をご確認ください。
万が一、対象期間内に解雇等が生じていた場合、助成金申請計画を再検討する等の対応が必要となります。従業員側に働きかけて無理やり「自己都合退職」として処理すれば、不正受給に該当します。不正受給を行うと、助成金の返還の他、一定期間助成金申請が一切できなくなる、社名公表される等のペナルティがあるため、くれぐれもご注意ください。
助成金申請を見据えるなら、第一に「労務管理の適正化」を
雇用関係助成金の支給申請をご検討中であれば、適正な形での労務管理の徹底を目指しましょう。「いざ助成金申請!」というタイミングで、過去に生じた労務管理上の問題が発覚したとしても、さかのぼって是正することは困難です。助成金活用を視野に入れた段階から、なるべく早期に社会保険労務士へご相談ください。労務管理の基本となる政府ガイドラインに則した勤怠管理なら、無料のクラウド勤怠管理システム HRMOS勤怠by IEYASUの導入をお勧めします。