2029年10月の特定17業種要件の撤廃に先立ち、推奨される「個人事業主の社会保険任意適用」

被用者保険の適用拡大や在職老齢年金制度の見直し等を盛り込む年金制度改正法が2025年6月に成立し、2026年4月以降、段階的に施行されます。このたびの改正法では、2029年10月より個人事業所の社会保険適用拡大が予定されていますが、これに先立ち、厚生労働省が「個人事業主の社会保険任意適用」を推奨しています。

2029年10月以降、個人事業所における社会保険適用が変わる?

個人事業所における社会保険適用は、現状、「常時5人以上の者を使用する法定17業種の事業所」に限定されています。法定17業種とは、具体的には以下の業種を指します。

①物の製造、②土木・建設、③鉱物採掘、④電気、⑤運送、⑥貨物積卸、⑦焼却・清掃、⑧物の販売、⑨金融・保険、⑩保管・賃貸、⑪媒介周旋、⑫集金、⑬教育・研究、⑭医療、⑮通信・報道、⑯社会福祉、⑰弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業

このたびの年金制度改正では、2029年10月以降、「法定17業種要件」が撤廃され、原則として、常時5人以上の者を使用する全業種の事業所を社会保険適用対象とされることになりました。ただし、例外的に、2029年10月の時点ですでに開業している特定17業種以外の業種の個人事業所については、経過措置として当分の間、適用対象から除かれます。

出典:厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について

厚生労働省が推奨する、個人事業所の社会保険任意適用

雇用する従業員が常時5人未満、もしくは5人以上であっても前述の特定17業種に該当しない個人事業所は、社会保険の適用対象外です。よって、従業員は、社会保険被保険者資格取得要件を満たす働き方をしていたとしても加入することができず、各自で国民年金や国民健康保険等に加入してもらうことになります。
ところが、社会保険適用の対象に該当しない個人事業所であっても、従業員の半数以上の同意を得て、事業主が申請をすることで、従業員を社会保険に加入させることができる任意適用の制度があります。任意適用申請の事業所の場合、健康保険のみ・厚生年金保険のみのどちらか一つの制度のみ加入することも可能です。

個人事業所の社会保険任意適用手続き

個人事業所を任意適用事業所とするためには、被保険者となるべき従業員の2分の1以上の同意を得て、「健康保険・厚生年金保険 任意適用申請書」を事務センターまたは管轄の年金事務所に提出し、厚生労働大臣の認可を受ける必要があります。申請時に提出する書類は、以下の通りです。
(1)任意適用申請書
(2)任意適用同意書(従業員の2分の1以上の同意を得たことを証する書類)
(3)事業主世帯全員の住民票(コピー不可)
(4)公租公課の領収書(原則 1 年分)(コピー可)
所得税(国税)、事業税(道府県税)、市町村民税(市町村税)、国民年金保険料、国民健康保険料
併せて、従業員の被保険者資格取得届、従業員に扶養している方がいる場合は「被扶養者(異動)届」の手続を行います。

参考:日本年金機構「任意適用申請の手続き

個人事業所の社会保険任意適用 注意すべき点は?

適用対象とはならない個人事業所を社会保険適用とする上では、いくつか注意すべき点があります。

被保険者要件を満たすすべての従業員が社会保険適用対象となります

任意適用では「被保険者となるべき従業員の2分の1以上の同意」が要件となりますが、任意適用事業所となる認可を受けると、被保険者要件を満たすすべての従業員を社会保険の被保険者としなければなりません。「同意した従業員のみ加入させる」ということができませんので、注意が必要です。
社会保険加入に際して、従業員にとってはメリットと保険料負担それぞれの観点からの検討があると思います。中には、「高い保険料を取られる」といったイメージが拭えない方もいるでしょう。事業主は、社会保険に加入するメリットを正しく伝える、実際の保険料負担のシミュレーションを行う等を通して、従業員自身が前向きに社会保険加入に目を向けられるような工夫を講じると良いでしょう。

参考:厚生労働省「個人事業主の皆さま 社会保険への任意加入を考えてみませんか(ご案内)_社会保険加入のメリットについて

個人事業主及び家族従業員は加入できません

個人事業所が健康保険・厚生年金保険の任意適用の認可を受けても、個人事業主自身が健康保険・厚生年金保険に加入することはできません。事業主と同一住所の家族従業員に関しても同様です。個人事業主及び同一住所の家族従業員は、引き続き国民健康保険・国民年金に加入することになります。このあたりは法人の代表者が強制適用とされている点と混同されがちですので、あらかじめ理解しておきましょう。

任意適用の取消には「被保険者の4分の3以上の同意」が必要です

任意適用の申請時には「被保険者となるべき従業員の2分の1以上の同意」が必要ですが、任意適用の取消を行う際には「被保険者の4分の3以上の同意」が求められます。このあたりの取扱いも含めて、従業員とよく話し合い、慎重に検討を進める必要があります。

参考:日本年金機構「任意適用事業所が任意適用の取消をしようとするとき

個人事業所の社会保険任意適用は、人手不足時代の採用戦略のひとつとなり得ます

社会保険加入に対する労働者側の意識は様々ですが、職場で社会保険に加入できることを仕事探しの要件に挙げるケースは多く見受けられます。社会保険適用拡大が着々と進む中、小規模の個人事業所が採用面で競合他社に引けを取らないためには、社会保険任意適用の申請を検討することも戦略のひとつとなるでしょう。
何かと煩雑な社会保険任意適用申請は、社会保険労務士までお気軽にご相談ください!

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