勤怠打刻ファースト

【実録・労基が来た!】突然の臨検にどう対応するのか|私が臨検で指摘されたこと・報告したこと

どんなに日々きちんと労務管理をしていても、突然、労基署から通知がくれば、多くの担当者の方があわてるのではないかと思います。もしもの時のために実際はどんなことを指摘されたり、どんな対応をしなければいけないかというのは、知りたい方も多いのではないでしょうか?

『とっさの労基呼び出し要請にもあわてない!実際に臨検で行われた報告事例を紹介』の記事でも臨検の体験談をご紹介しましたが、今回も、実際に臨検を経験した担当者の方にご寄稿いただきました。

指摘されたことから報告したことまで、臨検の際にどのような対応をしたのか、現場の生の声をお届けします。

臨検の実体験をお伝えします

突然、労働基準監督署(労基)の立ち入り調査が入ることに……。そのとき、どう対応すればいいか、きちんとわかっていますか? 多くの人事担当者は「何か指摘されたらどうしよう」「どう対応したらいいんだろう」と不安になるのではないでしょうか。

そこで、実際の「臨検(立ち入り調査)」ではどんなことを指摘されるのか、どんなことを報告するのかを、私の実体験をもとにまとめてみたいと思います。もっとこうしておけばよかった、事前にやっておけばよかった、といった反省点もあわせてご紹介しますので、今後の労務管理、勤怠管理の参考にしていただければと思います。

なぜ臨検に入られたのか

私はアウトソーサーとして給与計算や社保手続き業務をしており、IT系企業や小売系の企業などを担当していました。ある日、担当する企業の1社から「労基が来た!」との連絡が……。

その会社は、国内で数か所の店舗を運営している会社でした。従業員数は50人ほどで、それぞれの店舗が本当に最低限の人数でまわしており、スタッフは常に忙しく働いていました。特に忙しい店舗では、長時間労働が常態化しているような面もありました。

各店舗はタイムカードで勤怠管理をしており、毎月タイムカードを送ってもらい、打刻漏れや打ち間違いを確認しつつ、それをもとに給与計算処理をするのが私の業務でした。

その一方で、本社従業員は出退勤の記録をしておらず、出勤した日と残業時間のみを紙で記録していました。そして、毎月30時間分の固定残業代をつけていました。

そもそも臨検とは?

労働基準監督署による調査、それが「臨検調査(通称・臨検)」です。労働基準法をはじめとする様々な労働関連法規に違反していないかどうかを調査するもので、原則として、拒否することはできません。

拒否したくても、臨検はある日突然、予告なしにやってきます。なかには事前連絡がある場合もあるようですが、私が担当したこの会社の場合は、文字どおり突然、2人の労働基準監督官がやって来ました。

そして、様々な書類や帳簿の提出を求められると同時に、実際に立ち入り調査を行って、責任者や従業員からのヒアリングを行います。

なお、臨検には「定期監督」と「申告監督」があり、定期監督の場合は無作為に選ばれた会社が調査対象となりますので、本当に寝耳に水といった状況です。もうひとつの申告監督は、従業員からの申告(つまり告発)があった場合ですが、私が経験したのは幸いにも定期監督のほうでした。

どんな書類の提出を求められるのか

臨検にあたっては様々な書類の提出を求められます。実は、私自身は最初の立ち入り調査には立ち会うことができておらず(報告のみ立ち会いました)、どのようにして提出を求められたのかはわからないのですが、指摘内容から以下のような書類を提出したのだろうと思われます。

なお、一般的には以下のような書類を求められることが多いようです。

臨検に入られなくてもきちんと整えておかなければならない書類もありますので、普段からチェックしておくほうがいいでしょう。

臨検で指摘されたこと

恐怖の臨検から数日後、再び労基の監督官がやって来ました。最初の立ち入り調査で明るみになった指摘を伝えるためです。まずは「是正勧告書」という書類を渡され、この中では以下のような点を指摘されました。

【是正勧告書による指摘】

続いて、「過重労働による健康障害防止について」という用紙を渡されます。ここでは、以下の点を指摘されていました。

【過重労働による健康障害防止についての指摘】
3 時間外・休日労働を1月当たり100時間を超えて行わせた労働者について、面接指導等を実施する対象となっていないが、常時50人以上の労働者を使用する事業場の場合には、衛生委員会等により調査審議を行い、常時50人未満の労働者を使用する事業場の場合には、労働安全衛生規則第23条の2に基づく関係労働者の意見を聴くための機会等を利用して関係労働者の意見を聴取し、当該労働を行わせた労働者全員に面接指導を実施するなど、面接指導等の必要な措置を実施する対象者とするよう努めること。

また、過重労働による健康障害を防止する観点から、時間外・休日労働を月45時間以内とするよう削減に努めること。

5 「長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること」について、常時50人以上労働者を使用する事業場の場合には、衛生委員会等において速やかに調査審議を行い、常時50人未満の労働者を使用する事業場の場合には、労働安全衛生規則第23条の2に基づく関係労働者の意見を聴くための機会等を利用して速やかに関係労働者の意見を聴取すること、また、その結果に基づき、必要な措置を講ずるよう努めること。

6 面接指導等を実施するに当たり、労働者による申出が適切になされるようにするため、労働者が自己の時間外・休日労働時間数を確認できる仕組み等予め定めるなど、必要な措置を講じ、これを労働者に周知徹底すること。

さらに「指導事項」として、具体的には以下のようなことを指摘されました。

【指導事項】
1 店舗に勤務する正社員はひとり一日当たりの労働時間が11時間から13時間に達しており恒常的な長時間労働の原因になっている、ついては交代制勤務や変形労働制の導入など勤務体系の見直しを行うこと。

2 本社に勤務する労働者に関して日々の始業・終業時刻を把握しておらず時間外労働のみを申請させる携帯及び30分単位の申請に限っている。タイムカード等客観的な記録により、始業・終業時刻及び時間外労働、休日労働時間の把握を行うこと。

3 定額残業代制において“残業30時間分”固定の時間外手当が支給されていない労働者について支給すること。

4 休日割増し賃金と深夜割増賃金は固定時間外手当に含まれるか規程上明確になっていない、賃金台帳においては時間外・休日・深夜労働の記載がなく、結果として恒常的な長時間労働を行わせている状態、更に割増賃金の支払不足が認められた。時間外労働の把握と法定割増賃金の支払いが不足しないようにすること。

5 36協定の締結、毎年の見直しは確実に行うこと。

6 店長など管理的な立場にある労働者について割増賃金の対象外となっているが、法定の割増賃金を計算して支給すること。

7 最低賃金を下回ることのないように毎年労働者の賃金金額を見直しすること。

労基に報告したこと

臨検による指摘を受けて、会社では、以下のような内容と、遡及するように指摘を受けた賃金の計算結果を労働基準監督署に提出しました。

違反事項 是正内容
法定の除外理由なく労働者に時間外労働及び休日労働を行わせていたこと 各事業所について36協定を締結した
所定休日労働を行った労働者に対し、当該時間分の賃金を支払っていないこと 遡及指定された日まで遡り再度給与計算

40時間超や60時間超、まるめについても指摘を受けていたためこちらについても再集計(給与ではなく賞与で支払った)

労働者に対し法定の割増賃金を払っていないこと 遡及指定された日まで遡り再度給与計算

40時間超や60時間超、まるめについても指摘を受けていたためこちらについても再集計(給与ではなく賞与で支払った)

労働者名簿を調整していないこと 在籍従業員について労働者名簿を作成する
社員に関し、賃金台帳に労働時間数を記載していないこと 時間外時間、深夜時間、休日時間を賃金台帳へ記載する
常時10人以上の労働者を使用しているが、衛生推進者を専任していないこと。(選任のうえ氏名を労働者に周知すること) 人事部長を衛生推進者に選任
定期健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者について、医師の意見を聴いていないこと。 次回、健康診断より異常所見があると診断された労働者については産業保健サービスもしくは産業医の面接を実施。その後の記録を徹底
店舗に勤務する正社員はひとり一日当たりの労働時間が11時間から13時間に達しており恒常的な長時間労働の原因になっている、ついては交代制勤務や変形労働制の導入など勤務体系の見直しを行うこと。 シフト制の導入を予定、早番、遅番のシフト管理を行う。又、慢性的な人員不足の解消に新規、中途採用活動を行う。人員計画の策定。
本社に勤務する労働者に関して日々の始業・終業時刻を把握しておらず時間外労働のみを申請させる携帯及び30分単位の申請に限っている。タイムカード等客観的な記録により、始業・終業時刻及び時間外労働、休日労働時間の把握を行うこと。 詳細な労働時間管理を行うために新たに勤怠管理システムを導入。労働時間の把握に努める。
定額残業代制において”残業30時間分”固定の時間外手当が支給されていない労働者について支給すること。 現状の不足分については残業30時間の見直しを行い賞与にて支給。
休日割増し賃金と深夜割増賃金は固定時間外手当に含まれるか規程上明確になっていない、賃金台帳においては時間外・休日・深夜労働の記載がなく、結果として恒常的な長時間労働を行わせている状態、更に割増賃金の支払不足が認められた。時間外労働の把握と法定割増賃金の支払いが不足しないようにすること。 固定時間外手当の規程見直しを行う。座性対応による遡及計算にて賃金台帳への時間外・休日・深夜労働時間の記録と割増賃金計算を実施。今後は時間外労働の把握に努め法定割増賃金の支払いは確実に実施する。
36協定の締結、毎年の見直しは確実に行うこと。 毎年の〇月を36協定の締結、見直し時期として確実に行う。
店長など管理的な立場にある労働者について割増賃金の対象外となっているが、法定の割増賃金を計算して支給すること。 店長、管理的立場にある労働者についても割増賃金を支給する、未払遡及分については賞与にて支給。
最低賃金を下回ることのないように毎年労働者の賃金金額を見直しすること。 今後は毎年〇月の年俸改定、又は契約更新時に最低賃金を意識した賃金見直しを行う。

まさかの再調査にどう立ち向かったか

無事に報告を終えてやれやれ……と思っていたところ、またもや監督官から連絡が入りました。指摘事項の中の2点について、向こうで計算した金額と合わないというのです。

これらの対応をしたのは、他でもない私です。慌ててデータを見直したところ、私が担当を引き継ぐ前の計算結果が、労基が計算した金額よりも少なかったらしく、再度タイムカード等を見直して再計算することになりました。

この再計算を終えるころ、再び連絡が。今度は、再計算の状況や支払い状況を確認するために訪問をしたい、との連絡でした(もちろん、断るわけにはいきません)。

当日は、事前に1時間ほどプレミーティングをして、どのように受け答えをするのかを話し合ってから、訪問に挑みました。そして、是正への対応内容を報告するとともに再計算の結果を提出し、未払いだった賃金については夏の賞与で支払うことを報告して、無事に対応を終えました。

その後、未払い賃金を実際に夏の賞与で支払った旨を報告した時点で、この一連の臨検対応は完了しました。

怒濤の臨検対応を終えて思うこと

この会社の場合、さほど従業員数の多い会社ではなかったのですが、それだけに、勤怠管理を1日単位の丸め処理にしてしまっていたことや、40時間超え、60時間超えの計算をしていなかったことが、結果として問題となりました。

実際、それらの再計算(遡及計算)にはかなりの時間がかかり、通常業務をこなしながらの対応は本当に大変だったことを思い出します。その一方で、この計算以外はそれほど大変な思いはしなかったようにも記憶しています。

ただ、そうは言っても、是正対応はやはり心身ともにストレスです。臨検はランダムに行われるため、いつ立ち入り調査が来るかわかりません。いざ入られてから慌てないためにも、日ごろから違反がないように自主的にチェックしておくことお勧めします。

それに加えて、会社に勤怠システムを導入してきちんと勤怠管理をしていれば、こんな苦労をすることもなかったのに……と切に思います。

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