労働関係法令には、企業が遵守すべき労務管理上のルールが定められていますが、網羅すべき範囲が極めて膨大であるため、事業者がそのすべてを把握することは困難と言わざるを得ません。今号のテーマである「事務所衛生基準規則」は職場の衛生管理の基本を定めるものですが、実務上、見落とされがちな規則のひとつです。
このページでは、盲点になりがちでありながらも、意外と重要な「事務所衛生基準規則」の概要を確認しましょう。
目次
全23条に、衛生管理関連のルールが凝縮された「事務所衛生基準規則」
従業員の安全かつ健康的な就労を可能にする職場環境の整備について定めた「事務所衛生基準規則」は、以下よりご確認いただけます。条文数は全23条とさほど多くないため、ご一読いただければ、概要をざっくり把握していただけるかと思います。
参考:厚生労働省「事務所衛生基準規則」
規則上、義務とされているのは「休憩室」ではなく「休養室の設置」です
ここでひとつ、企業が見落としがちな項目をひとつ挙げるとするなら、「休養室」の設置義務についてです。
「休憩室ならあるよ」という現場は多いかもしれませんが、事務所則第19条によると、「事業者は、労働者が有効に利用することができる休憩の設備を設けるように努めなければならない。」とあります。従業員がお昼休憩等に活用できる休憩室に関して、休憩室や休憩のために必要な設備の設置はあくまで努力義務と読み取ることができます。
一方で、第21条には「事業者は、常時五十人以上又は常時女性三十人以上の労働者を使用するときは、労働者がが床することのできる休養室又は休養所を、男性用と女性用に区別して設けなければならない。」とあります。「が床」とは「臥床」、「床につくこと」です。つまり、従業員が床につくことができる休養所を、男女別に設けなければなりません。休憩室と異なり、休養室の設置は一定規模以上の事業者の義務規定となっているのです。
法令で義務付けられているに「独立個室型の便所」の設置
事務所則第17条に規定される「トイレ」に関する決まりも確認しておきましょう。2021年の事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則改正に伴い、事業所内のトイレ設置に関する基準が緩和されました。
改正前は、事業所には男女それぞれのトイレを区別して設置することとされており、小さな事業所ではこの基準を満たすことが困難なケースが多々ありました。この点、2021年の改正において、「同時に就業する労働者が常時10人以内である場合は、便所を男性用と女性用に区別することの例外として、事業者が、男性用と女性用に区別しない四方を壁等で囲まれた一個の便房により構成される便所(独立個室型の便所」)を設けることで足りること」とされました。トイレ設置に係る原則的なルールに変更はありませんが、小規模事業所における例外規定が設けられた形となります。
事業所の照度や空調に関するルールも確認しましょう
この他、事業所内の明るさや室温についても、事務所衛生基準規則に以下の通り定められています。
作業面の照度基準
◎「一般的な事務作業」については300ルクス以上、「付随的な事務作業」については150ルクス以上であること
「一般的な事務作業」は、通常のオフィスワークが幅広くイメージされます。一方で、「付随的な事務作業」とは、資料の袋詰め等、事務作業のうち、文字を読み込んだり資料を細かく識別したりする必要のない作業を指し、これに従事する際のルクス数が別途設定されています。
関連記事:『オフィスの「照明」問題を解消!事務所スペースの適切な明るさ基準を確認』
事業所の室温
2022年4月より、事業者が空気調和設備を設置している場合の、労働者が常時就業する部屋の気温の努力目標値が変更されています。
出典:厚生労働省パンフレット「令和4年3月1日公布_職場における労働衛生基準が変わりました」
折に触れて見直すべき、職場の衛生管理
新型コロナウイルス感染症対策や熱中症対策義務化等への対応を背景に、ここ数年、職場において衛生管理を見直す機会が増えているのではないでしょうか。ひと口に「衛生管理」といっても様々な切り口がありますが、指標のひとつとされる「事務所衛生基準規則」も参考にしながら、適切な体制整備に努めましょう。