すでに別記事で解説した通り、2025年度は秋以降、地域別最低賃金の大幅引上げが予定されています。新たな地域別最低賃金の発効年月日は概ね2025年10月1日から2026年3月31日となっており、企業においては今後の正式決定に注視し、対応を講じる必要があります。今号では、地域別最低賃金の大幅引き上げに伴い、賃金改定のタイミング、賃金引き上げによる随時改定(月額変更届)の実務について解説します。
目次
地域別最低賃金の引き上げに伴う、適切な賃金改定時期とは?
地域別最低賃金の発効日は、必ずしも貴社の賃金計算期間の初日にあたるわけではありません。多くの現場で、月の賃金計算期間の途中に新たな地域別最低賃金の発効日がくることが大半です。このような場合、事業場内の賃金改定は以下のいずれかの方法で対応することになります。
① 発行日よりも以前に到来する賃金計算期間の初日時点で、賃金を引上げる
② 賃金計算期間の途中であっても、発効日のタイミングで賃金を引上げる
給与計算実務に鑑みれば、①にて対応する方法が有力でしょうが、一方で、「あくまで発行日に合わせて対応する」という方針の現場もあるでしょう。「発行日には新しい最低賃金を適用している状態」となるのであれば、いずれの方法で対応しても問題ありません。
地域別最低賃金改定に伴う「随時改定(月額変更届)」のタイミングにご注意を
地域別最低賃金は2025年度、「63円」から「80円」の大幅引上げとなります。社会保険被保険者の賃金が引き上げられると、要件を満たせば「随時改定(月額変更届)」の対象となります。
そもそも「随時改定(月額変更届)」とは?
ここで、「随時改定(月額変更届)」の要件を確認しましょう。随時改定は、次の3つの条件をすべて満たす場合に行います。
(1)昇給または降給等により固定的賃金に変動があった。
(2)変動月からの3ヶ月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
(3)3ヶ月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である。
これら(1)から(3)すべての要件を満たした場合、変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4ヶ月目の標準報酬月額から改定されます。地域別最低賃金引き上げに伴う賃金改定は、「昇給(ベースアップ)」「日給や時間給の基礎単価(日当、単価)の変更」として(1)の固定的賃金の変動に該当します。その上で、標準報酬月額が2等級以上高くなり、支払基礎日数が所定の要件を満たす場合、随時改定(月額変更届)を行う必要があります。
「時給が数十円上がっただけで、随時改定の対象になるの?」と思われるかもしれませんが、2025年度の大幅引上げでは対象となる可能性が十分あります。以下は、秋田県の保険料額表です。
出典:協会けんぽ「令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表_秋田県」
例えば、賃金引き上げに伴い報酬月額62,000円から73,000円に該当した場合、賃金改定は「+11,000円」となります。秋田県の最低賃金は2025年度、80円引き上げの見込みです。最低賃金引き上げ額に合わせて時給が見直される(固定的賃金の変動)と、当然これに伴い時間外・休日割増も増額となり、結果的に「3ヶ月平均で2等級以上の差」が生じるケースも出てくるでしょう。
「随時改定(月額変更届)」のタイミング
地域別最低賃金引き上げに伴い、随時改定(月額変更届)をいつ行うべきなのかは、事業場内の賃金改定がいつだったかによって異なります。
まずは日本年金機構の事例集より、原則的なルールを確認しましょう。
出典:日本年金機構「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」
上記の考えに鑑みれば、事業場内の賃金改定時期に伴う随時改定(月額変更届)のタイミングは以下の通りとなります。
<条件>賃金計算期間 10月1日~10月31日、賃金支給日が翌月25日、最低賃金の発効日は2025年10月18日の場合
① 発行日よりも以前に到来する賃金計算期間の初日時点で、賃金を引上げる場合(10月1日引上げ)、起算月は11月(11月25日、12月25日、1月25日に支給される賃金で随時改定)
② 賃金計算期間の途中であっても、発効日のタイミングで賃金を引上げる場合(10月18日引上げ)、起算月は12月(12月25日、1月25日、2月25日に支給される賃金で随時改定)
※10月1日~10月31日労働分(11月25日支払)の給与は、「昇給・降給した給与が実績として1ヶ月分確保された月」に該当しない
2025年度は、地域別最低賃金の引き上げに伴う賃金改定、随時変更(月額変更届)に対応する現場も出てくることが予想されます。各人の賃金改定状況に鑑み、適切に対応できるようにしましょう。