勤怠打刻ファースト

「連続勤務の上限規制」「法定休日の明確な特定義務」・・・等、労働基準関係法制研究会報告書に見る2026年労基法改正の概要

2026年は、労働基準法の大改正年度となる見通しです。昨今、私たちの働き方が目まぐるしく変化する一方、各種労働関係法令の要となる労働基準法については1987年の改正以降大きな見直しが行われていない実態があります。こうした背景に鑑み、現在、労働基準法の抜本的な見直し・整備、及び2026年中の法改正に向けた議論が進められています。労働基準関係法制に係る包括的かつ中長期的な検討を行う労働基準関係法制研究会が2025年1月に公表した報告書の内容から、労働基準法40年ぶりの大改正の概要を確認しましょう。

労働基準法大改正2026 ① 「労働者」「事業」「労使コミュニケーション」に係る再定義

産業構造の変化、働き方の多様化、デジタル技術の休職な発展、さらには新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、労働者性や事業・事業場の概念、労使コミュニケーションのあり方の見直しが急務となっています。

< 労働者性 >
働き方の多様性が認められる中で、「労働者」と「非労働者」の境界が曖昧になりつつあります。今後労働関係法令の見直し・運用を行う上では、どのように働く人が「労働者」であるのか、「労働者」に対してはどのような保護法制があり、「労働者」に該当しない者に対しての制度はどのようなものになるのかといった、法的効果とその対象者像を踏まえた上で、労働者と非労働者の境界をどのように判断していくことが望ましいかを検討する必要があるとされます。

< 事業 >
労働基準法の適用単位は「事業」であり「事業場」であるのが大原則ですが、近年、働く場所についての変化は大きく、場所にとらわれない働き方も拡大しています。また、「事業場」の考え方に関しては、現状の通り「事業場単位」を原則としつつ、実態として企業単位や複数事業場単位で同一の労働条件が定められるような場合であって、企業単位や複数事業場単位で適切な労使コミュニケーションが行われるときは、労使の合意により、手続を企業単位や複数事業場単位で行うことも選択肢になることを明らかにすることが考えられます。

< 労使コミュニケーション >
集団的労使コミュニケーションには、以下の性質のものがあります。
① 労使が団体交渉を通じて労働条件や労使関係ルールを設定するもの
② 法律で定められた規制の原則的な水準について、労使の合意等の一定の手続の下に、個別の企業、事業場、労働者の実情に合わせて、法所定要件の下で法定基準を調整・代替するもの
③ ②の法定基準の調整・代替に係る労使協定の遵守状況のモニタリングや労使間の苦情・紛争処理等を通じた労働条件規範の遵守に関するもの
④ 労使間の情報共有を通じた労働者による経営参画に関するもの
このたびの労働基準法改正では、上記のうち②③のあり方に関わる議論があり、主に「過半数代表者」に係る見直しがなされています。

労働基準法大改正2026 ② 2週間以上の連続勤務を防ぐ「2週2休」の導入

現行制度では、法定休日として、労働者に毎週少なくとも1回の休日を付与することを原則としつつ、4週間を通じ4日以上の休日を与える変形休日制(4週4休制)を認めています。この点、労災保険における精神障害の認定基準では、2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行ったことが心理的負荷となる具体的出来事の一つとして示されることに鑑み、2週間以上の連続勤務を防ぐという観点から、「13 日を超える連続勤務をさせてはならない」旨の規定、具体的には4週4休の特例を「2週2休」とする等の措置を労働基準法上に設けることが考えられます。

労働基準法大改正2026 ③ 法定休日の特定

労基法上、現状では法定休日の特定について定めがありません。この点について、実務上は、通達において「具体的に一定の日を休日と定める方法を規定するよう指導」する旨が示されています。法定休日は、労働者の健康を確保するための休息であるとともに、労働者の私的生活を尊重し、そのリズムを保つためのものであり、また、法定休日に関する法律関係が当事者間でも明確に認識されるべきであることから、あらかじめ法定休日を特定すべきことを法律上に規定することが求められます。

労働基準法大改正2026 ④ 勤務間インターバル制度の義務化

月を単位とした労働時間管理だけでなく、日々の生活を送る上でのワーク・ライフ・バランスの確保の必要性から、勤務間インターバル制度抜本的な導入促進と義務化を視野に入れつつ、法規制の強化について検討する必要があります。内容としては、勤務間インターバル時間として 11 時間を確保することを原則としつつ、業種等に応じた柔軟な対応、勤務間インターバル時間が確保できなかった場合の代替措置の検討等、多くの企業が導入しやすい形での制度設計を前提に、現行の抽象的な努力義務規定を具体化していくことが目指されます。

労働基準法大改正2026 ⑤ つながらない権利に係るガイドライン策定

労働契約上、労働時間ではない時間に、使用者が労働者の生活に介入する権利はないにもかかわらず、突発的な状況への対応や、顧客からの要求等によって、勤務時間外に対応を余儀なくされる等の事態が生じています。この点、欧州で法制化が進められる「つながらない権利」について、国がガイドラインを策定し、これを元に勤務時間外にどのような連絡までが許容又は拒否することができることとするのか等の総合的な社内ルールの検討促進を図ることが求められます。

労働基準法大改正2026 ⑥ 副業・兼業の場合の割増賃金通算ルールの見直し

人手不足を背景に、企業においては副業・兼業解禁が進められていますが、割増賃金の計算のために本業先と副業・兼業先の労働時間を1日単位で細かく管理しなければならないこと(その過程で、労働者自身も細かく自己申告する等の負担が生じること)等の複雑な制度運用が企業が雇用型の副業・兼業を自社の労働者に許可することや、副業・兼業を希望する他社の労働者を雇用することを難しくしていたり、労働者が企業に申告せずに副業・兼業を行う要因の一つになっていたりする実態があります。こうした現状を踏まえ、労働者の健康確保のための労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の支払いについては、通算を要しないよう、制度改正に取り組むことが考えられます。

実に40年ぶりとなる労働基準法大改正の動向に注目

今号では、現在議論が進められている労働基準法改正について、主に企業実務に関係しそうな部分をピックアップして改正しました。労働基準法は2025年中の議論を元に、2026年中にも改正される可能性があるとのことで、企業においては引き続きその動向に注目し、少しずつ実務対応を検討されておくのが得策です。