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年次有給休暇の「斉一的付与」とは?基準日の正しい変更手順・留意点を解説

新年度を迎え、新たに社内体制の見直しに取り組む現場も多いのではないでしょうか?ひと口に「社内体制」と言っても様々な観点がありますが、労務管理上、頻繁に話題に挙がるテーマのひとつに「年次有給休暇の付与ルール」があります。企業においては2019年4月の有休年5日取得義務化以降、年次有給休暇の管理をより厳密に行うこととなり、取り組みのひとつとして年次有給休暇の基準日統一を検討する現場が増加傾向にあるようです。今号では、「年次有給休暇の基準日変更」の手順や留意点について確認しましょう。

年次有給休暇の斉一的取扱いで、有休管理をより効率的に

年次有給休暇が最初に付与されるタイミングは、労働基準法第39条に規定されている通り、雇入れ日から6ヶ月経過した日となります。そして、この初回付与日を「基準日」として、毎年同じ日に年次有給休暇を付与します。4月1日入社の方であれば、6ヶ月が経過した日は10月1日となり、以降1年6ヶ月経過、2年6ヶ月・・・のタイミングで法定の付与日数を付与することになります。
原則的なルールに則ると、従業員ごとに「基準日」が異なることになります。そのため、従業員数の多い会社では、それだけ有休管理が膨大になります。こうした問題を解消するのが「年次有給休暇の斉一的取扱い」、つまり「基準日の統一」です。本来、従業員の入社日に応じて個別に定まる基準日について、全社的な一律の基準日を設けることによって、労務管理をより効率良く行えることになります。

年次有給休暇の基準日を統一するための手順

年次有給休暇の斉一的取扱いを導入する場合、従業員にとって不利益とならないよう、十分に留意する必要があります。通達によると、以下の要件を満たす範囲で認められるとされています。

〇 年次有給休暇の付与要件である8割出勤の算定は、短縮された期間は全期間出勤したものとみなすものであること。

〇 次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じまたはそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げること (例えば、斉一的取扱いとして、4月1日入社した者に入社時に10日、1年後である翌年の4月1日に11日付与とする場合) 。

上記を踏まえて、年次有給休暇の斉一的取扱いの具体的な事例を考えてみましょう。

4月1日に一斉付与としたい場合

出典:厚生労働省「しっかりマスター 有給休暇編

《法定》①雇入れ日から6ヶ月経過後の10月1日(基準日)に10日付与
②10月1日(基準日)から1年後(=雇入れ日から1年6ヶ月後)の翌年10月1日に11日付与

《斉一的取扱い》①雇入れ日から6ヶ月経過を待たずに10日付与
例)4月1日~9月30日入社:10月1日に10日付与
10月1日~翌年3月31日入社:4月1日に10日付与
4月1日~9月30日入社の従業員には翌年10月1日を待つことなく、
翌年4月1日に11日付与⇒以降、4月1日が基準日となる

なお、入社後に試用期間を設けている会社等では、雇入れ後最初の付与は法定通り「6ヶ月経過後」として、その後の付与から斉一的取扱いを採用することも考えられます。

4月1日と10月1日、年2回基準日を設けることも可能

前述の事例は、基準日を4月1日に統一するケースでした。これに対し、基準日を年2回とすることも認められます。この場合、「4月1日~9月30日入社:10月1日に10日付与」「10月1日~翌年3月31日入社:4月1日に10日付与」として、以降の基準日をそれぞれ「10月1日(4~9月入社)」「4月1日(10~3月入社)」のまま付与を行います。

法定を下回る運用、入社時期の違いによる不公平感にご留意ください

年次有給休暇の斉一的付与を導入する際、まず注意しなければならないのが「法定の付与日数を下回る制度設計になっていないかどうか」です。例えば、6月1日入社の従業員に対して、1月1日の一斉付与日を適用する場合を考えてみましょう。

〇 6月1日入社
《法定》雇入れ日から6ヶ月経過後の12月1日(基準日)に10日付与

《認められない例》
× 雇入れ日から6ヶ月経過後の12月1日(基準日)に付与するはずの10日を、1月1日付与とする
⇒基準日よりも後ろ倒しになる取扱いは認められません

× 本来の基準日である12月1日には1日のみ付与、その後1月1日に9日付与
⇒年次有給休暇を分割付与とする場合、最初の付与日(この場合は12月1日)が基準日となります
よって、1月1日の一斉付与に対応できません

《認められる例》
〇 雇入れ日から6ヶ月経過後の12月1日(基準日)に10日付与、その直後に到来する1月1日に1年6ヶ月経過とみなして11日付与

なお、上記《認められるケース》では、入社時期の違いによる不公平感が生じます。もっとも、本来入社時期に応じて異なるはずの基準日を統一しようというのですから、どうしても公平性の問題はつきものと言えます。もっとも、法定付与日数を下回らない限りは、このような不公平に対して必ずしも対策を講じなければならないというわけではありませんが、緩和策として「基準日を年2回にする」「入社時点で、入社月に応じた会社独自の有給休暇を付与して調整する」等の方法をとる現場もあります。このあたりの実務対応は、社会保険労務士にご相談いただき、御社の状況に合った方法を検討するのが得策です。