いよいよ本格的な冬の始まりを迎え、インフルエンザを始めとする様々な感染症が流行する季節がやってきました。感染症罹患時の従業員の出勤ルールについては、すでに新型コロナの5類移行に際して整備されている現場も多いと思います。一方で、そもそも法律上、就業制限の対象となる感染症・ならない感染症の分類については、意外と正しく理解されていない部分ではないでしょうか?今号では、感染症罹患に伴う就業制限の有無について確認しましょう。
目次
そもそも、法律上、就業制限の対象となる感染症とは?
従業員から「感染症に罹患した」との連絡を受けた際の対応は、まず感染症の種類によって異なります。感染症法上、あらゆる感染症に分類があることはすでにコロナ禍に広く知られることとなりましたが、この分類によって就業制限を受けるか否かが異なっています。
感染症法上、就業制限の対象となるのは主に1類から3類まで
まずは感染症法上の就業制限の対象となる感染症の種類について確認しておきましょう。
- 1類感染症
エボラ出血熱、痘そう、ペスト、ラッサ熱等 - 2類感染症
結核、SARS、鳥インフルエンザ(特定鳥インフルエンザ)等 - 3類感染症
コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症等 - 新型インフルエンザ等感染症
- その他、指定感染症
上記のうち、「インフルエンザ」は比較的よく耳にするキーワードでしょう。ここで注意すべきは、「新型インフルエンザ」は、毎年流行を繰り返す季節性のインフルエンザとは抗原性が大きく異なるものであるということです。一般に、国民が免疫を獲得していないことから、全国的かつ急速なまん延により国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものを指します。その流行周期は10年~40年と言われ、最近では2009年に新型インフルエンザの流行がありました。つまり、ひと口に「インフルエンザ」といっても、必ずしも法的な就業制限の対象となるわけではなく、新型なのか季節性なのかによって取扱いが異なる点に注意が必要です。
労働安全衛生法上、就業制限の対象とできる感染症
一方、労働安全衛生法第68条では、感染症罹患に伴う就業制限について以下の通り定めています。
事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかつた労働者については、
厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない。
出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)」
前述の「伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるもの」について、労働安全衛生規則61条1項によると、以下の通り明記されています。
- 病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかつた者(1号)
- 心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかつた者(2号)
- 前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものにかかつた者(3号)
出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)」
上記1号の「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかつた者」の解釈について、通達によると「伝染させるおそれが著しいと認められる結核にかかっている者」との具体的な記載があります。つまり、労働安全衛生法上、就業制限の対象となる感染症について、明記があるのは「結核」のみということになります。
参考:厚生労働省「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行について」
法律の定めによらない、会社独自の就業制限ルールの必要性
このように、感染症法や労働安全衛生法に規定される労働者の就業制限は、意外にも、一般的に考えられているよりも限定的なケースにとどまります。これから本格的な感染症流行シーズンを迎えるにあたり、季節性インフルエンザや新型コロナウイルス、ノロウイルス等、職場ではあらゆる感染症罹患者の発生が見込まれます。安全配慮義務の観点から、職場での感染防止措置の徹底は事業者が講じるべき義務とも言えます。感染症関連の就業制限に関わる御社のルールを、今一度見直されてみてください。
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